南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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∬12月―チョルバの誘惑(1)


《12月―チョルバの誘惑》 ~2003年12月の記録

 第1話 ドマテス・チョルバス大失敗

チョルバとは、トルコ語でスープのこと。
味噌汁の嫌いな日本人が珍しいのと同じくらい、いやそれ以上に、チョルバの嫌いなトルコ人なんていないんじゃないだろうか。
日本人が味噌汁の香りにほっと慰められたり、一口啜ってはハ~ッとため息を付いたりするように、トルコ人にとってもチョルバは温かく懐かしいお袋の味なんだろうと思う。
どんなレストランやロカンタ(大衆食堂)にも常に何種類かのチョルバが用意してあるし、家庭の食事に招かれても、まず出されるのは熱々のチョルバなのだ。

しかし、我が家でトルコ風のチョルバが食卓に登ったことは、今までに片手で数えるくらいしかなかった。
ひとつには、ビール党の夫に合わせていたということ。1年中、それこそ冬夏問わず食事前のビールが欠かせない夫は、多いときは500cc入りの瓶を一度に2本は開ける。アンタルヤに帰っている時の夫は完全に休暇気分。いきおい真昼間からいそいそと冷蔵庫を開け、まず一杯ならぬまず1本、それからゆっくり食事に取り掛かる。ビールの相伴にチョルバは合わなかろう、という配慮なのである。
もうひとつは、私自身チョルバ作りの腕に自信が持てなかったこと。腕が上がるほど作ったこともないので当たり前なのだが、作らないから上達しない、上手くできそうもないから作らない、の悪循環だった。

ところが、あれほどビール瓶を手放せなかった夫が、この秋すっぱりとビールをやめてしまったのだ。理由はもちろん健康への配慮からだ。
食事の前の一杯がなくなると、食前、食中を通して飲み物が水もしくはジュースだけ、というのもなんだか味気ない。
それでも、気温23℃前後の暖かい小春日和に恵まれているうちは、さして気にならなかった。冷え込む日の夕食には、なにがしかの煮込み料理を作れば、チョルバの必要はないと思っていた。

チョルバの魅力に気付いたきっかけは、この間のシェケル・バイラム(砂糖祭)の休暇だった。
エスキシェヒルに住む義妹が、姪を連れて我が家に遊びに来た時のこと。夕食のメニューを何にしようか思案した挙句、肉や野菜を用いたメイン料理やサラダの他に、やっぱりチョルバがないと物足りないというか、物寂しい。なにより「熱々」が足りない、ということに気付いたのだった。和食だったら、文句なく熱々の味噌汁を拵えるところだが、トルコ料理となると、ここはやっぱりチョルバだろう。

さっそく義妹に相談して、チョルバを作ろうということになったのだが、棚や冷蔵庫の中にわずかに残っていたメルジメッキ(レンズ豆)やシェヒリエ(短く切った極細のスパゲッティ)は、いつ開けたのか思い出せないほど昔のもので、まるきり使い物にはならなかった。
手近にある材料でできそうなものといえば、タヴック・チョルバス(チキン・スープ)かドマテス・チョルバス(トマト・スープ)くらいなものだった。

我が家の上の娘の大好物で、短時間でできることから、ドマテス・チョルバスを義妹と一緒に作ることになったのだが、これは大失敗だった。もとよりチョルバの正確な作り方を知らない私は、1から10まで義妹に頼るしかなかったのだが、義妹も手抜きをしたのかどうか、ただドマテス・サルチャス(トマト・ペースト)と小麦粉をバターで炒め、それを水でのばして終わりにしてしまったのだ。本来なら生のトマトを擂りおろして入れるか、せめてトマトジュースを入れるのだろうが、両者とも冷蔵庫にあったに関わらず、使わないで済ませてしまったのだった。
誰一人手をつけようとしないチョルバは、義妹の手によってあえなく流し行きとなってしまった。

 (つづく)

第2話 タヴック・チョルバス&メルジメッキ・チョルバス


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