南トルコ・アンタルヤの12ヶ月*** 地中海は今日も青し

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(2)ファスルラル村への道


《ヒッタイトの足跡を訪ねる旅―第1回》 (2003年8月の旅の記録) 

(2)ファスルラル村への道

ファスルラル村までの道程は順調そのものだった。
老体にもかかわらず、夫の愛車はいったん走り出したらなかなか根をあげないのだ。
夫も愛車をいたわりながら、常に抑えたペースで進んでいた。

私の脳裏には、途中の幹線道路ですぐ脇を通り過ぎる際、思わず目を背けずにいられなかった事故車の光景が焼きついていた。
大破して、運転手側のボディーが気休め程度に残っている以外、天井もフロントも含め右側の半分以上が失われていた。
鋼鉄製の自動車が、プラスチックのモデルカーであるかのような錯覚を覚えるほどのこんな事故に遭遇するたび、乗り物としての車の驚くべき脆さ、自動車事故の計り知れない危険性を思い知らされる。

マナヴガットの先12km地点で北に折れると、やがて山道が始まる。
沿道には、周辺の村からやって来るハチミツ売りや果物売りが店を出している。
出発から約2時間半。アクセキの手前に新しくできたドライブインで休憩をした。
食事はまあまあ、トイレも新しく、全体に悪くはない。しかしここには、地元の特産品などの興味を惹くお土産品は一切置いてないようだった。どの観光地でも見かけるごく一般的な土産品ばかりが、小奇麗に並べられていた。
お土産はいつものドライブインで帰りに買うこととし、再び出発。

何度かアップダウンを繰り返し、セイディシェヒルを通り過ぎ、コンヤへ向う道から左に折れると、あとは平坦な道が続いている。
車の左右に広がるのは畑ばかり。湖畔の穏やかな気候が影響しているのだろう。この辺り一体は豊かな農業地帯となっているようだった。
5分咲きほどに開いたヒマワリ、てんさいやヒヨコ豆、そして麦だろうか、穀類の収穫も盛んに行われているようだった。

小さな茶色い標識を見逃しそうになり、慌てて車をUターンさせると、ファスルラル村に続く一本道に入った。
ファスルラル村はここからさらに10km先。
途中、畑で作業する農民たちを見かけるたび、夫は車の窓から手を挙げて必ず挨拶した。

「セラムナレイキュン!」
普段夫は使わない伝統的なムスリム風の挨拶ことばだが、田舎の村を通りかかる時には“郷に入っては郷に従え”、夫はそんな風に誰にでも声を掛け、またそんな自分を楽しんでさえいるようだ。
腰を上げ、手を振り返してくれる農民の姿を後ろに見ながら、狭く頼りない橋を渡り、小さく貧しい村の間を通り過ぎ、やがて車はゆっくりとファスルラル村にさしかかった。

つづく

(3)ガイド少年



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