ひとりぼっちのおばあちゃん~その1~




特に高齢になったりすると。。。





そのおばあちゃんは来院されている方の御紹介でした。


とてもきれいな新興住宅地の大きな家にお住まいでしたが、元々は都内の生活の便がとても良い住宅街に住んでいたんです。

(あのサザエさんの街です)


長年、慣れ親しんだその街でしたが、ある時突然ご主人が「引越しをする」と言い出して、この街に引っ越してきたんだそうです。


なにしろ、ご主人も昔の方ですから、言い始めたら聞かず、このおばあちゃんも昔の人ですから、いろいろ文句は有っても結局はご主人の言うことに従って来たんだそうです。

(「本当は引っ越したく無かった」と私に散々愚痴を言っていました)


初めの頃は来院されていたんですが、そのうちに大変になってしまい私が往診する事にしたんです。

(うちは現在は基本的に院内のみなんですけど、こういったご縁の有る方だけは出張したりするんです。)


初めてお伺いした時に、チャイムを鳴らして待っているとご主人がインターホン越しに出たのですが、セールスと勘違いして追い返されたんです。


帰宅してから電話をしたんですがここでもご主人が出て、やっぱりセールスと勘違いされて切られそうになる所をなんとか説明して分かってもらえた事がありました。


次にお伺いした時にご主人は謝ってくださったんですが、奥さん(このおばあちゃんですね)は、ナントいうかここぞとばかりに「おとうさん、なんてことしたの!」なんて言っているんです。

それからもしばしばそんな光景がありました。


(今までじっと耐えてきたおばあちゃんが唯一、ご主人に意見できる事だったのかなァ)

私にはそんな風に見えました。


そのご主人ですが、引越しをしてから体調を崩されて、入退院を繰り返していました。

(私は方位とか家相とかあんまり分からないのですが、もしかしたらそういうものって有るのかもしれませんね)


後で聞いた話しですが、そんな時にこのおばあちゃんは、いつもご主人の洗濯物や着替えをきれいにアイロンがけして持って行ったそうです。


なんというか、傍から見ていると不器用ですけれども、そんな夫婦の愛情表現だったのかもしれませんね。


ご主人は結局お亡くなりになってしまったんです。


お通夜には出席させていただいたのですが、様子を見て帰ろうとする私に

「一人にしないで下さいよ」

なんて言われて、帰るのに一苦労しました。


お子さんはそれぞれ家庭を持って、別々の土地で暮らしているんです。

普段はあまり行き来は無かったみたいです。


このおばあちゃんも私にはそうでは無かったけれども、もしかしたら家族に対して気難しいところが有ったのかもしれませんね。

(息子さん達の愚痴もいろいろと聞きました)


一通り式が済んで、広いお住まいに(5LDK程)お年寄りが一人だけの生活がいよいよ始まったんです。


普通の家族でも充分な広さです。

その頃は、週に二回お伺いしていたのですが、やっぱりお年寄りが一人で住むには寂しい感じでした。


それまで、散々ご主人の愚痴を言ってきたのに、亡くなってからは後悔の言葉ばかりになりました。

それまで、どんなに不平不満があっても、やっぱり長年寄り添って生きてきた重みと言うものは、他人には想像できないものがあるみたいです。

(もっとも今は「死んでせいせいした」なんて言葉を平気で聞く時代ですけど。。)


このおばあちゃん、腰が悪かったんです。

その治療でお伺いしていたんですが、実はそこに大きな落とし穴があったんです。


腰痛にも大変な病気が隠されている事があるんです。

そして、そんな症状に気が付けなかった私の力量不足のお話しでもあります。。


そして、今も日本全国で有るはずであろう、お歳よりの一人きりの寂しい生活の場面のお話しでもあります。



つづく。。。

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