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第五位：ブラックジャック

＜第五位：ブラックジャック/手塚治虫＞

BlackJack

「私の漫画ベストテン」第５位は手塚治虫の「ブラックジャック」。自分勝手なベストテンの中に、手塚治虫だけが２作品（もう一つは「火の鳥」）入っている。

　もはや手塚の偉大さを再度ここで説明する必要もないが、このブラックジャックは何度読んでもそのすばらしさに圧倒される。
　無免許だが天才的な外科手術の腕を持つ男、ブラックジャック。その奇跡の腕を頼りに多くの患者達が集まり、無数の物語が生まれていた・・・

「ブラックジャック」単行本第一巻（少年チャンピオンコミックス版）が発売されたのが１９７４年。「マンガ家生活３０周年記念作品」と銘打って週刊少年チャンピオンに連載され始めた。そして最終巻の第２５巻が発売されたのが１９９５年。連載はその前に終了していたが、「読み切り」という形での掲載を含めると、一人のキャラを中心にした物語を実に２０年以上も描いていたことになる。（雑誌連載期間は１９７３年から１９８３年まで）

　「マンガ家生活３０周年記念作品」というだけあって、ブラックジャックと助手のピノコ、安楽死専門のドクターキリコらがこの作品のために創造された新キャラで、毎回登場するゲストキャラはその殆どが他の作品に登場した連中を起用している。そんな芸当が出来るのも手塚作品ならではの楽しさ。

　この作品が後世の諸作品の追随を許さない点を私なりに幾つかあげてみたい。

１. ２３４話全てが一話完結形式、一話一話がすべて独立したストーリーになっている点。

２.殆ど全ての作品が２０ページ前後で作られており、短いページ数の中で非常に高濃度な作品世界が構築されている点。（ちなみに現在、少年・少女マンガの連載作品の殆どがストーリー作品であり、一話完結作品は大変少ない。一話完結作品であってもページ数は３０～４０ページが普通

３.全編が一貫して高いヒューマニズム、人間愛の視点で貫かれており、子供　から大人まで、どの世代でも感動を分かち合える大変高度なテクニック　　で描かれている点。

　とにかく私の持っている少年チャンピオンコミックス版では、全２３４話全てが一話完結。ここに収録されていない話で前後編とかがあるのかもしれないが、それにしてもそれらは全体から見ればごくごく例外に過ぎない。２００話以上を一話完結で描ききっているその天才的ストーリーテラーぶりには脱帽するしかない。

　また、当時の雑誌は今よりも総ページ数が少なくて薄かったから、一人の作家がもらえるページ数も少なかった。手塚といえども毎回２２ページ前後しかもらえなかったのだ。現在から見ればかなり少ないページ数で、一話完結を保持していったのはやはり手塚の天才だけが成せる技なのだろう。

　そして何よりもその一話一話が大変面白い。単純なハッピーエンドに終わる作品はむしろ少なく、読み終わって考えさせられるストーリーが非常に多いのも特徴だ。

　全作品の中で、私が最も好きな話は第４１話「二つの愛」。
ブラックジャックが通う寿司屋の板前タクやんはある日ダンプに轢かれ、職人として最も大事な両腕を切断してしまう。しかし彼はそのダンプの運転手明を許す代わりに、その明の腕で寿司を握って欲しいという条件を出す。タクやんには高齢の母親がいて、彼女にうまい寿司を食べさせてあげることがタクやんの夢だったのだ。

　寿司など握ったことがない明を特訓し、タクやんと明は深い友情に結ばれる。やがて明は腕をあげ、タクやんと変わらぬ腕前まで上達。二人三脚の店は繁盛し、母親にも寿司をごちそうすることが出来るまでになる。

　ここまでなら並のハッピーエンド。ブラックジャックの出る幕さえない。
なにもかもうまくいっているかのように見えたが、なんと今度は明が交通事故で即死してしまう。「また僕の手を無くしてしまった！！」嘆き悲しむタクやん・・・

　しかし、明の妻のたっての要望で、ブラックジャックが亡くなった明の腕をタクやんに移植する。「手術代は、うまい寿司を食わせてくれればいいですぜ」という台詞がかっこよすぎる。そして数ヶ月後、タクやんは回復し、今度は移植された明の腕で再びブラックジャックの前に立つ。そしてその横には、彼女の亡き夫の「腕」に会いに通う妻の姿があった。

この作品がたった２４ページ！その間、ストーリーが暗転すること二回。事故により生きるすべさえ失った男、それを必死で助けようとする犯人、そしてその彼を献身的に支える妻。その愛に動かされて高難度の手術に挑むBJ。この話一つに、いくつもの愛や友情が盛り込まれているのには本当に驚かされる・・・

　もちろん、他にも感動的な話がいくつもある。まだの方は手塚治虫の天才の証を是非読んでみて頂きたいと心から思う。

新書版２５巻ものは中古でしか手に入らないようです・・・