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| (5) |
| それから、K君は1週間に1度のペースで彼の家を訪れた。 K君が彼の家を訪ねた翌日には、彼は必ず私のところに電話をしてきた。 「うっどちゃん、オレ、どうしたらええんやろ。オレちゃんと正直に自分の胸のうちを話たやんなぁ。それでも、うちに来るっていうのは、どういうことなんやろ。」 とか、 「Kは相変わらず、同じ劇団の○ちゃんのこと好きみたいやねん。それなのに、オレのところに来るってどういうことやろ。」 など。 確かにKのしていることは、私にも理解できなかった。 K君のことを好きだという彼の気持ちを受け入れるつもりならば、K君は○ちゃんのことを彼に匂わせなくても良いはずだ。 だけど、K君は彼の気持ちを知りながら、彼に○ちゃんのことを話している。 「彼の気持ちを受け入れることはできないが、彼と友達としての関係をなくしたくない」 ということだろうか。 それならそれで、きちんと彼に説明してやらなくては、彼がK君の行動をどのように理解してよいのか、混乱してしまう。 それは、当然のことのように私には思えた。 そして、もう一つ、私には気がかりなことがあった。 もしもK君が、彼の気持ちを知っていて、○ちゃんのことを匂わせて、反応を楽しんでいるのだとしたら・・・。 こんな考えはK君に対して失礼だし、悪意を持った推察であることはわかっていた。 でも、私にはその可能性を捨てきることができなかった。 もしそうであったなら、私はK君を許さない。 こんな状態が1週間ほど続いた頃、私は元々予定していた大学院の受験に臨んだ。 そして、あっけなく落ちてしまった。 彼に電話でそのことを報告したとき、彼は申し訳ないと言った。 自分がK君のことでたびたび電話して、私の勉強時間を奪ったのではないかと考えたからだ。 「そんなことないよ。もし、私が今電話に出たくないときだったら、出ないでおくこともできたし、今は話が聞けないときだったら、そう言っただろうし。実際に、今はダメって言った事あったでしょ?」 私がそう言っても、彼は納得できなかったようだった。 実際、それはウソだった。 私はあの頃、何よりも彼からの電話を優先し、電話がかかってきたら、必ず出るようにしていた。 彼からの電話は、私にとって大学院受験の勉強よりも大切な、今を逃したらもう二度とない大切な時間になっていた。 ウソなんていうものは、どんなに上手なウソでもそれと気づくものだ。 本当にだまされるのは、例えウソの匂いがしても、それがウソであって欲しくないと心から願っているときだけだ。 「じゃあ、残念会を開いてよ。メンバーとか少なくていいから」 そうお願いした。 試験に落ちた当日、急に声を掛けて来てくれたのは、皮肉にもK君と彼の二人だった。 その日の残念会のことは、正直あまり覚えていない。 三人で、おいしい飲茶のお店に行って、中国のお酒を飲みながらアツアツの飲茶を食べて、たくさん話して、カラオケに行ってたくさん歌って、それからもう一度飲みなおしにお店に寄って、それから帰った。 でも、その間に何があったのか、どんなことを話したのか、ほとんど記憶にない。 どんなにお酒を飲んでも、記憶がなくなったことはないのに・・・ 今振り返って思えば、きっと私はオーバーヒートしていたのだと思う。 彼のこと、K君のことできっと私はいっぱいいっぱいだったに違いない。そこで試験に落ちて、残念会に来たのが彼とK君。 残念会とは言え、お酒が入れば私たちはみんな陽気になり、それなりに楽しい時間を過ごしたはずだ。 もしかすると覚えていたくなかったのかもしれない。 彼らと楽しそうに過ごした時間を。 楽しそうな彼らを見ていた時間を。 本当はとってもつらかった時間を。 大学院に落ちたので、急遽もう一つ大学院を受験することにした。 私はまた、勉強する身になった。 |
| (6) へつづく |