鈴木康央の「いのち文化研究所」  赤心庵2 

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いのち文化研究所

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コスモス@ Re:●夏野菜も終わりかけています…でもまだまだ(笑)(09/29) 初めて書き込みますが。 お元気でいらっし…
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2010.05.04
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カテゴリ: カテゴリ未分類


●突然に現れたノラ猫「ノラ」。

そのノラが、これまたふいに帰ってこなくなり、心配で心配で居ても立ってもいられない日々を綴った日記風の随筆です。

もともと猫嫌いだった百けんでしたが、ノラが帰らないことでオロオロしつつ、自分がいかにネコ好きであるかに気づきます。

ノラが帰ってこられなくて困っているのではないか、とノラのことを思うたびに泣く毎日。
その泣き方も、涙が止まらなく仕事も手に付かない泣き方です。


●近所中探しまわるのですが見つかりません。


チラシをまいたり電信柱に張り紙をしたり、あらゆることをしてノラを探します。

食事ものどを通りません。老人がうっぷして夜泣きするのは実に滑稽ですが、次第に百けんの心の中に引きづり込まれていきます。

一緒にノラを探しているような錯覚をするところが、この随筆の際立ったところでしょう。


●さて、ノラは見つかるでしょうか?

随筆の文体もそれなりに古く、決してやさしく書いてはいないのですが、むしろノラという見えない猫が主人公の「小説」のようでもあり、単なる随筆とは思えません。


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(本から)



出来上がった本さえも開くのがいやで(ノラを想い出して涙が出るから)そのままにしておいたと自分で書いています。


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気を変へようと思つても涙が流れて止まらない。
二十八日以来あまり泣いたので洟を拭いた鼻の先が白くなつて皮が剥けた。
見廻したそこいらにゐないと涙が出る。
(3.31)

自制してゐるけれど時時思い出して涙が止まらなくなる。
矢張り三月二十七日の昼ノラが木賊の所から行つた事を思ひ、お勝手へニヤアと云つて帰つて来ない事を思ひ、家内が「ノラちやんは」と抱いてゐた事を思ひ、いつ迄も涙が止まらない。寝る前風呂蓋に顔を伏せてノラやノラやノラやと呼んで泣き入つた。
(4.19)

注)風呂蓋はいつもノラが坐っていた場所。

四月二十六日金曜日

今朝も昨日からの続きでくよくよして、涙が流れて困る。夕方近くなり、夜に入れば、一寸したはずみで又新しく涙が出て、ノラがいつもゐた廊下を歩くだけで泣きたくなる。雨の音が一番いけない。



ノラが帰らなくなつてから初めて今夜、思い切つて風呂に這入った。非常に痩せてゐる。二貫目ぐらゐ減つてゐるかも知れない。衰弱で目がよく見えなくなつた。
(4.30)

注)ずっと風呂にも入らなかった百けんです。



一日ぢゆう紙一重の気持ちで、下手をすれば堰を切つた様になつて何も出来ない。ノラやと思つただけで後は涙が止まらなくなり、紙をぬらして机の下の屑篭を一ぱいにしてしまふ。


午下ぢつと坐つていて何のきつかけもあつたわけではないがノラが可哀想になり泣き続けた。どうも雨の日はいけない。一日ぢゆう泣いたので目が腫ぼつたい。
(6.7)



**********

1967年12月、百けんは芸術院の会員に推薦されました。

芸術院の会員になれば、60万円(当時)の年金が入るので、貧乏の百けんにとってはありがたいはずなのに、なんとあっさりと断ってしまいます。

その理由は


「イヤダカラ、イヤダ」


使いの人にメモを渡して(上に)伝えてくれと書いた内容です。

「……サレドモ、ご辞退申し上げたい。ナゼカ。芸術院という会に入るのがイヤなのです。ナゼイヤカ。気が進まないから。ナゼ気が進まないか。イヤダカラ」


これが「イヤダカラ、イヤダ」と後世に伝わっているのですね。

いい言葉です。(笑)カタカナだからその感じが「頑固」で、なおかつ「ぼくとつ」としていて実にイイ。

子供っぽくて ジツニイイ。




「キライナモノハ、キライダ」

「マチガッテイルカラ、マチガッテイル」

「ハラガタツモノハ、ハラガタツ」…


いいですね。わたしに合っています。(笑) みなさんにはドウデスカ?




●「ノラヤ」は猫好きにはたまらない一冊でしょう。


うちだひゃっけん d0065324_2265698.jpg


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内田 百けん(うちだ ひゃっけん)

1889年(明治22年)5月29日 - 1971年(昭和46年)4月20日)は、夏目漱石門下の日本の小説家、随筆家、本名は内田栄造。

戦後は筆名を内田百けんと改めた(けんは門構えに月)。別号は百鬼園(ひゃっきえん)。

「百けん」は、故郷にある旭川の緊急放水路である百けん川から取ったもの。別号の「百鬼園」を「借金」の語呂合わせとする説もあるが、本人は一応のところ否定している。

迫り来る得体の知れない恐怖感を表現した小説や、独特なユーモアに富んだ随筆などを得意とした。師である夏目漱石の縁故から夏目伸六と親交が深かったことでも有名。

(ウィキペディア フリー百科事典 より)

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おとうさん 2 NEC_0055.jpg

おとうさん、ノラはどこへ行ったんだろうね








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Last updated  2010.05.04 05:55:18
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