『迷走王 ボーダー』


「迷走王 ボーダー」全14巻
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原作 狩撫麻礼
作画 たなか亜希夫

この前、オークションで落札してしまいました。15年ぐらい前に漫画アクションに連載されていた漫画です。
これはもう、むちゃくちゃ趣味の世界の漫画なので、好き嫌いが二分されるかもしれません。
原作が狩撫麻礼だけありまして、ブッラクミュージックとボブ・マーレイ礼賛の漫画でもありますし、ちょうどその頃日本でもロックバンドがちょっと流行った時代でもあって、ブルーハーツなんかも注目されています。

バブルの絶頂期。若者文化は合コンとサーフィンとテニスとニューミュージックに代表されていて、それについていけない連中は「暗い」だの「あぶない」だのレッテル付けをされていました。
これはまさにその価値観からすれば「暗くてあぶない」奴を描いた漫画なのです。
人を見かけだけで判断する風潮が生まれ、価値観は相対化され、若い女の子が発声する言葉の7割が「かわいー」になり、真剣に物事に取り組んだり、政治的な話をすると「くらーい」と嫌われた時代です。
マスコミがアホをどんどん生み出し、漢字も読めない素人の女子大生が深夜のテレビで注目を浴び、公の場で「私たちはバカじゃない!!」といっていた、あの時代。
そんな時代にこの漫画の主人公、蜂須賀センパイが海外放浪の旅から帰ってきたところから物語は始まります。

「ボーダー」とは境界とか国境とかを表す言葉ですが、蜂須賀センパイは40代にして定職も持たず、フリーターをしているわけです。世の中の体制や大まかな流れをすべて「あちら側」と呼び、自分の認める価値観と整合しないことをわかっていながらも、そのギャップに直面すると、暴力によってでしか解決をしないアナーキーな男なわけです。

うまく社会に適応したいと思っていても、どうしても心の奥底で、大衆と迎合することを絶対に許せない性格。それがわかりやすく表面に出ている男が蜂須賀センパイなんですね。
ボロアパートの元共同便所に家賃3000円で住み、同じアパート仲間の久保田と木村君にたかりながら生活をしている彼は、それでも自分が絶対と決めたことはやりぬく力を持っているので、どことなくカリスマ性がある存在として描かれています。

この3人がある日、大金を横取りしようという計画を立てたところから物語は一気に盛り上がります。

残念なのは途中の盛り上がりがすごい分だけ、ラストのほうが中途半端になってしまい尻切れトンボになっている部分ですが、まあ、実際、この時代に、ファッションでテニスラケットを持ってキャンパスにやってくる連中を見ていた私としては結構、共感できることが多かった作品です。

しかし、なんといっても原作が狩撫麻礼ですからねえ。
レゲエ音楽やブラックミュージックが好きな人ならばたまらないでしょうが、ややもすれば、まったく理解されないタイプの作品です。

シリアスなんだけれど笑っちゃうのが、“大政翼賛”と言う字に、あえて“ニューミュージック”とルビが振ってあったりするんです。

蜂須賀センパイの名セリフがあります。
「人間が一念発起をすれば、宿命的に親の理解から外れ敵対するものさ。そこで無理にバランスを保とうとすれば、悪の芽、大政翼賛(ニューミュージック)が兆す。
・・・ならば、俺は親不孝者を選ぶ・・・」

この感覚、わかる方には、ぜひお勧めの作品です。


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