2004年09月10日
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     妊婦とは、無敵な生き物である。






   たまに公共の乗り物を利用することがある。

   この日もバスに乗ったワケだが…

   もともとバスに弱い私は不安を感じていた。

   ただでさえ酔いやすいというのに、
   つわりで最初からゲロッピな体で乗ったら……

   そんな一抹の不安を胸に、
   バス待ちの長い長い行列に身を置いていた。


   バスが来て、私が乗り込む頃には
   「優先席」と書かれたシートしか空いていなかった。



   ポッカリと空いている…。



     「 優先席 」



   パチンコ屋の新台席のように後光を放つこの席には、
   本来、老人や妊婦、身体障害者などが
   優先して座れることになっている。



       …  


        …妊婦だ。



   そう、まさしく私は妊婦だ。

   毎日、つわりやめまいに悩まされている妊婦だ。

   しかも、この少子化の御時世に、
   自分の人生を狂わせてまで「子を増やしてやろう」という
   アリガタ~イ妊婦なのだ。

   ここで少しぐらい恩恵を受けても良いだろう。



   そう思い、堂々と優先席に座った。



   そうしているウチに、
   発車時間待ちのバスには次々とヒトが乗り込み、
   アッという間に満員になってしまった。



    「 …すいませ~ん 」



   そんな言葉をかけられ見上げると、
   初老の男性が私を見下ろしていた。


   あえてジジィと呼ばせて頂くが。


   ジジィは私に向かい、こう言った。


    「 すいませんが…

妊婦なんで

      席を譲って頂けませんか? 」




         …。



   ジジィの隣には、その娘らしき女性が
   おそらく臨月近いであろうオナカを
   誇らしげに突き出して立っている…。




         …。






   私だって妊婦だ!


   ジジィ!うやまえ!!





   …と、言いたい所だが。

   ジジィをはじめバス内の誰もが、私を


    『 優先席に堂々と座る 図々しい女 』


   としか見ていないであろう。

   どんなに私が地腹を突き出したトコロで
   もっとハラの突き出た

    “ 妊婦らしい妊婦 ”

   には、かなわないのである。



    「 すみません… どうぞ… 」



   妙な敗北感と共に席を譲り、
   私は吊り革につかまって立った…。


     そうか…

     たとえ妊婦だとしても

     人様から妊婦と認めてもらえない妊婦は

     優先されないのだな…。



   その時バスの発車時間となり、バスは動き出した。



       …。


      予感的中。



   揺れと共にフツフツと吐き気は増し、
   めまいはヒドくなり、貧血症状が現れた。


      ううう…

      キモチワルイ…

      ちくしょう、ジジィ…

      末代まで祟ってやる…


   そんな思いと共に目の前が真っ暗になり、
   とうとう恥も外聞もなく座り込んでしまった。



    「 どうしたの?だいじょうぶ?! 」



   そんな声にハッと我に帰ると、
   最初は私の隣に、そして今は必然的に
   妊婦の隣に座っていた70歳くらいのバァさんが、
   周りの人と共に心配してくれていた。


    「 あ…大丈夫です、すみません… 」


   そう言い、立ち上がろうとする私にバァさんは 


    「 私、次のバス停で降りるけど…

      すぐそばにお医者さんあるわよ。

      一緒に降りてソコ行く? 」


   と、言ってくれた。

   小遣いをくれたくなるような良いバァさんだ。



    「 あぁ…ありがとうございます。 」


   そう答える私の視界の片隅に、
   私を伺っているようなジジィの顔がチラッと映った。



    「 でも、大丈夫です。 


      単なる  つわり  ですから… 」




   “つわり”をやや強調しつつ答えると、

   ジジィと妊婦が「えっ!」と顔を見合わせたのが分かった。

   いやらしいようだが、


    「 テメェの娘だけが妊婦じゃねぇ! 」


   というコトを、老い先短いこのジジィに
   キッチリ教えておかなければならない。

   自分を悔いぬ者の先には
   三途の川で追剥ぎババァに身ぐるみ剥がされ
   苦しい地獄行きの刑が待っているのだ。

   その罪を一つでも軽くしてやったのだから、
   ジジィよ。やっぱり私を、うやまえ。




   そんな私の愚感にもかかわらず、


    「 どうぞ。

      ここ座って。 」


   という人が一斉に席を立つ。



       …無敵だ。


    妊婦は病人より無敵なのだ。



     「 控えおろう! 」



   水戸黄門のクライマックスとダブった。



   そうして私はまんまと席を手に入れ、
   降りる時にはヒロインのように皆の注目を集めつつ、
   ヨロヨロとバスを後にした。




   ホントはドコぞのドラマのように

   バスの中心で叫びたかったのだが。





    妊婦は無敵だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!















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最終更新日  2005年06月04日 06時44分53秒
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