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カテゴリ: 小説ネタ



 良太と加奈が出会ったのは1年前のちょうどこんな日だった。

 大学浪人して予備校に通う良太は、午前の授業が終わると天気のいい日はいつも警固公園のベンチで母親が用意してくれた弁当を広げる。「いただきます」と手を合わせ、はしをウィンナーに伸ばそうとした時、横からかん高い声で「ワンワンワン」と聞こえた。

「ばさっ」

という音と共に弁当箱は地面にひっくり返って落ちた。しっぽをふりふりご飯を食べる白いムク犬を前に、良太は金縛り状態だった。

 すると、少し離れたところから、

「ジョ~ン」

という声がして、女性が駆け寄ってきた。どうやら飼い主のようだ。

「ジョン、だめじゃないの、逃げたりしちゃ」



「あら、ごめんなさい!どうしましょう」

と良太に謝った。良太は彼女の可憐さに怒る気も薄れ、

「いいんですよ、ダイエット中だったし」

と嘘をついていた。

「そうはいきませんよ。すぐ近くにペット同伴可のオープンカフェがあるので、そこでランチをご馳走させてください」

彼女の申し出を断る理由はどこにもなかった。午後の講義が苦手な古典ではあったが。


 ラブ・ら・ドールという名のカフェが西天神にあった。人気はそこそこといった感じですぐに席に着くことができた。

「ここ、そんなに高くないから、お好きなものをどうぞ」

そう言って彼女から渡されたメニューには、ほねガム、ドッグフード、ミルク・・・などと書かれており、良太はどういうリアクションをとればいいか戸惑っていた。

「これなんかいいんじゃない?」

そう言って彼女が指差したのは裏面に書かれた本日のおすすめランチだった。良太は恥ずかしさに頬を赤らめた。



良太は上ずった声で答えた。

 彼女はよくしゃべる人で、待っている間の主導権を握っていた。

「私の名前は大田加奈。ドッグ・シッターの仕事をしているの。あなたよりはちょっとお姉さんね。ジョンは桜井さんとこのワンちゃんで、時々お散歩を頼まれるのよ。力が強いんでつい手を離してしまって、ほんとうにごめんなさいね。」

「いえ、ぜんぜん気にしないでください。僕はそのぉ・・・、川井塾に通ってます」

「ふうん、受験生なんだ。偉いんだね」



話をさえぎるかのようにランチが届いた。加奈も同じものを注文していた。ジョンもドッグフードにありついた。良太はひどく緊張して黙々と食べていたため味はほとんど覚えていなかった。

 店を出ると加奈が

「じゃあこれで。お勉強がんばってね、受験生さん」

と言って手を振った。

「あ、えっと、良太です。葛城良太」

聞こえたか確認できぬまま、加奈はジョンに引かれて去っていった。良太の胸の内側にほわっと温かい感覚が残っていた。






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最終更新日  2006.05.10 08:38:27 コメント(1) | コメントを書く
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