灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

第六話


あの子の家では灰色猫は代々「はいね」と名付けられるらしい。
「何かね」と言うのは親分の口癖。
「親分」と言うのは何となく。
何となく「親分」と言いたくなるのだ。
親分は子守歌代わりに、初代から代々語り伝えられてきた、あの子にまつわる猫話を話してくれた。
伝説となっているのはあの灰色猫が産んだ「チロ・チビ姉妹」

「あの子もあの子の父親も、あんまり名付けのセンスはなくってね。
『白いからシロ』って言うのは1度付けたから『シロ』をもじって『チロ』と付けたの。白地に耳と頭のてっぺんがしましまの大五郎猫。
左後ろ足の付け根もしましまで、それが目印の様に、びっこを引いたの。
そう、猫族で有名な「天使猫」の証。
あえて言う必要もないでしょうけれど「天使猫」は身体のどこかか病気だったり障害があったり。
そのかわりにあの猫背には羽根がはえているのよね。
「チロ」のすぐ次にもう1匹「天使猫」が生まれたの。
これはそんな2匹の「天使猫」のお話。
「チロ」より後に産まれた仔猫は眼球が腫れて外側に飛び出して、それがまるで宝石のようにきらきらしていたと言うわ。
けれども、ある朝いきなり横たわったまま決して動かない姿となった仔猫。
あまりに突然であの子は名前も付けることが出来ないまま、ただ呆然としたままだった。
その夜のこと。
「チロ」は可愛がってくれたあの子の父親の車のエンジンルームにそっと忍び込んだの。
帰って来たばかりのエンジンルームはまだ暖かくて、秋風を避けようと、ごぞごそとはい上がったけれど、じきに身動きできなくなり、お腹もすいて、「チロ」はあの子を呼んだの。
「私はここ。どうか見つけて。」
朝、旅出った天使に心痛めていたあの子は、普段なら半日ほどいなくても気にしない「チロ」を必死になって探したの。
秋深い夜の闇の中を「チロ」を呼ぶあの子の声が響き渡った。
そうして。
車の中から聞こえるか細い「チロ」の声を、あの子はきちんと聴いてくれた。
きちんと見つけてくれた。
静かに、ゆっくりと開いた車のボンネットから、きょとんとした瞳をのぞかせて「チロ」は内心飛びつきたいほど嬉しかったんだって。』
あの子は大切なモノを見つけられたのよね。
そう言うとはいね親分はそのコワイ顔でにっこりと微笑んで
『もう寝なさい』と言った。


チロ.jpg

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