2004年10月27日
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カテゴリ: 「走り」ネタ
「1時間毎に、これを渡して下さい」
「えっ、これですか?」
稲垣選手から手渡された、補給品を見て、僕は驚きました。

日本人代表選手用エイドでは、次のような補給品を用意していました。
カレーライス、おかゆ、そーめん、カップラーメン、果物類、チョコレート、チーズ、味噌汁、コーンスープ、などの食べ物。
ミネラルウォーター、コーラ、フルーツジュース、ポカリスウエット、日本茶、コーヒー、紅茶、などの飲み物。
アミノバイタル(アミノ酸・ビタモンC入りの粉末)、エネルギー補給用ゼリー、などの、スポーツ食品。

そんな中で、ランナーの皆さんが、一番頻繁に補給していたのは、コーラでした。
「これが、カロリー高くて、ウルトラマラソンには、いいんだよネ」ってことです。

夜寒くなってくると、「ホットコーラ」を作って、渡してました。

さて、「稲垣スペシャル」です。
ローソンで、フツ~に売っているという、「どらチョコ」。
1袋に、直径4センチくらいの、チョコ入りドラ焼きが2個入っています。
これと、アミノ酸の錠剤4個、塩の錠剤1個だけです。

どらチョコ

「これで、大丈夫なんですか?」
「あまり食べると、下痢する体質なんですよ」

「ブルノ24時間走世界選手権」のコースは、チェコ共和国第2の都市ブルノ郊外のヴィノフラディ地区にあります。
1周約1.4kmのコースを、延々24時間グルグル回ります。
コースの中に、12箇所の曲がり角がある、とてもタフなコースです。
朝10時スタート!


この3人が、コースを1周して、エイドに帰って来た時に、補給品を手渡します。

桜井選手と八重樫選手は、時々、「お茶頂戴!」とか言う程度で、ほとんど手間が掛かりません。
補給品も、自分で、ドンドン取って行きます。
そこで、この二人はほっといて、僕は稲垣選手に意識を集中することにしました。
(桜井さん、八重樫さん、スミマセン)


「コーラ下さい!」「はい!」
「水下さい!」「はい!」

稲垣選手の要請に、メッチャ従順な僕。
こんなに、他人の指示に従順に仕事したことないです、正直。
もしかしたら、女性の上司の下で、力を発揮するタイプかもしれません。

順調に、「どらチョコ」を食べながら、走り続ける稲垣選手でしたが、9時間経過後くらいに、
「カラダのあちこちが、ケイレンする~」とか言い出しました。
ここは、慌てず、スポーツドリンク系を摂取して、何とか持ちこたえたみたいです。

10時間経過すると、稲垣選手も含めて、ほとんどのランナーが、痛み止めの錠剤をのみ始めます。
「そりゃ~、これだけ走り続けたら、どこかしら、痛くなりますよ」
う~ん、すごい人たちだ。

夜中になって、霧雨が降りだしました。
気温が低くなり、温かい飲み物を用意します。

「ハチミツのたっぷり入った紅茶下さい!」
「すっごく濃いコーヒー下さい!」

ドリンクの温度や味が気になった僕は、手渡す前に味見します。
「うん、丁度いい飲み具合だな、どうぞ!」
いわゆる、「間接キス」ですネ。
(稲垣さん、スミマセン)

当然、桜井選手と八重樫選手のドリンクは、味見せずに、「まっ、いっか~」と渡していたことは、言うまでもありません。
(桜井さん、八重樫さん、スミマセン)

レースも終盤、あと2時間になってきました。
ここに来て、稲垣選手の前を、トップで走っていた、ロシア選手のペースが落ちてきました。
「稲垣! 行けるぞ!」
井上監督に叱咤激励されながら、スピードを上げます。

ここで、秘密兵器が登場します。
「大豆ペプチド入りのスポーツ飲料」です。

このドリンクが入ったボトルを、僕の手から稲垣選手の手に渡し、20メートルくらい並走します。
飲み終えたボトルが、稲垣選手の手から僕の手に返ってきます。
「頑張れ!」
彼女の後姿を見送ります。
これを繰り返します。

そして、残り30分くらいに、ついに稲垣選手がトップに立ちます。
「やった~!!!」
そのまま、24時間終了!
「優勝だぁ~!!!」

続々と、エイドに帰って来る選手たち。
加村選手と伊藤サポーターが、涙の抱擁をしています。
「うっ、美しい~」
これを見て、僕も、「稲垣選手と熱い抱擁をしよう!」と強く心に誓ったのでした。

なかなか、帰って来ない稲垣選手。
「両手を広げて、彼女が僕の胸に飛び込んでくるようにするべきかな?」
「いや~、これだと、無視して通り過ぎられたら、目も当てられないなぁ」
「握手して、グイッと引き寄せて、抱きしめようかな?」
などと、考えを巡らします。

しかし、帰って来た稲垣選手の姿を見て、愕然とします。
係の人に支えられて、まるでヌケガラになったような姿です。
すぐに、マットに寝かされます。
足を椅子の上に載せて、高い位置に持って来ます。

ドクターがやって来ました。
「あっ、あの~、熱い抱擁がぁ...」
「何? つべこべ言わずに、これ持って!」
点滴を打ち始めます。

稲垣選手は、24時間で、237km走りました。
ここまで、自分を追い込んで、走りきったんです。
僕の中に、熱いものが込み上げて来ました。
「稲垣さん、感動をありがとう!」

会場で、表彰式が始まりました。
フラフラになりながらも、表彰台に立つ、稲垣選手。
僕は、涙で滲んで、デジカメの画面が見えないまま、シャッターを押し続けました。

24時間走/稲垣選手

この写真を見て、僕は、思いました。
「あれっ、3位のアメリカ選手、可愛いな!」

いやいや、こういうオチでは、いけませんネ。
僕が言いたいのは、こういうことです。

稲垣選手は、僕のような、24時間走を知らない、素人サポーターを使うはめになりました。
彼女は、24時間を、自らコントロールし続けて、走りきったのです。
彼女の精神力に感服します。
世界選手権優勝と、237kmというアジア新記録は、僕というハンディキャップを背負いながら達成された、とてつもない結果なのです。

これからの人生で、苦しいことがあれば、僕は、稲垣さんを思い出すことにします。
僕の辛さなんて、たいしたことないはずです。
精神的に強くなることが出来ました。
「稲垣さん、本当に、ありがとうございました!」

そして、今度会った時には、
「熱い抱擁を、お願いします!」



なお、「ブルノ24時間走世界選手権」の様子は、月刊誌「ランナーズ」1月号(11月22日発売)に、掲載されます。
是非、ご覧下さい。


---ジョギング日誌---
プラハは、日没時間が早くなってきました。
もうすぐ、冬時間に移行です。
時計を1時間遅らせます。

明日から、ドイツを走ります。

本日の走行距離:6km
10月の走行距離:111km





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最終更新日  2004年10月27日 18時14分21秒
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