シェイクスピアの作品の中でも最も有名なものでしょう。そしてその中でも有名なのが、以下のセリフ。
To be,or not,to be, that is the question.
これは様々に訳されてきました。
木下順二「生きるか死ぬかそれが問題だ。」
福田恒存「生か死かそれが疑問だ。」
小田島雄志「このままでいいのかいけないのか、それが問題だ。」
デンマークの王子ハムレットは父の亡霊から父を殺したのは叔父である事を知らされ復讐を命じられますが、叔父の現在の妻は自分の母である事などを考え思い悩んだ末にこのセリフを語るのです。
結局、ハムレットは復讐を果たしますが、恋人のオフェーリアはハムレットの心変わりと、ハムレットによって父を殺された悲しみから気が狂い、足を滑らせて水死します。オフェーリアの兄レアティーズはハムレットと決闘して死に、叔父は刺し殺され、母は毒杯をあおって死にます。そしてハムレット自身も死に、幕が下りるのです。
シェイクスピアの生没年は、1564年~1616年なのですが、この記憶の仕方、1564(人殺し)の1616(いろいろ)は、中々良くできている、そう思いませんか?
※『ワーグマン日本素描集』岩波文庫 に、このセリフのおそらく日本初訳が載っています。「シェクシピル」の「ハムレットさん、ダンマルクノカミ」「アリマス、アリマセン、アレハナンデスカ」
『リチャード三世』福田恒存訳 新潮文庫
背景は、ランカスター、ヨーク両家の凄惨なバラ戦争。
冒頭の、「やっと忍苦の冬も去り、このとおり天日もヨークの味方」は、テュークスベリーの戦い(1471年)でランカスター家のヘンリー6世が倒されて、ヨーク家のエドワード4世が即位した事を示します。エドワード4世に忠誠を誓ったグロスター伯は、王がなくなると、即位したばかりのエドワード5世とその一族を監禁したり暗殺して王位につき、リチャード三世となります。
しかし彼を王位につけるのに功績があった者たちが反乱を起こし、さらにランカスター派のヘンリー・テューダーがフランスからイギリスに侵入、1485年のボズワースの戦いでリチャードは敗れ去り、遺体は丸裸にされて晒されました。勝者のヘンリーはヘンリー七世としてテューダー朝をひらきます。
シェイクスピアが生きた時代は、テューダー朝の時代ですから、リチャードは格好の敵役、実に悪の権化として描かれています。ところがさすがはシェイクスピア、この戯曲は「悪の魅力」で観客を惹きつけることになるのです。
A horse!a horse!my kingdom for a horse!
馬をくれ、馬を!馬の代わりにわが王国をくれてやる!
リチャード三世、終幕間近のセリフです。for、「同格のfor」ですが、こういう簡潔な表現になるのですね。
『時の娘』ジョセフィン・ティ ハヤカワ文庫
捜査中に事故にあったグラント警部は病院のベッドの上で暇をもてあましていました。その時、偶然にも一枚の肖像画に出会います。強い印象を受けた警部は裏返して名前を確認しますと、そこには「リチャード三世」と書いてあります。リチャード三世といえば、シェイクスピアの作品で有名な冷血漢、悪逆無道の殺人鬼・・。しかし肖像画の人物はまことに穏やかな顔をしています。
リチャード三世とはどんな人物であったのか?警部の中に疑問が生まれます。グラント警部は、ベッドの上からいろんな指示を出し、リチャード三世の実像に迫ろうとします。さてその結論は・・。
1951年に刊行された「歴史ミステリ」の傑作です。
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