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まろ0301

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2019.07.15
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『労働者階級の反乱』地べたから見た英国 EU 離脱 ブレイディみかこ


 光文社新書  2017 10



 英国の EU からの離脱の原因について、日本では「移民に対する反感」が報じられ、私もそう思っていた。だが、この本を読んで考え方に少しばかり幅が出来てきた。



 第Ⅲ部「英国労働者階級の百年 歴史の中に現在 ( いま ) が見える」から読んだ方がいいと思う。


 日本では「階級」という言葉、例えば「労働者階級」、「資本家階級」と言った言葉は日常生活ではほとんど使われず、見なくなっている。私が今使っている世界史 A と現代社会の教科書には、「労働者」、「資本家」という言葉は出てくるが、「階級」という言葉は出てこない。


 著者は、「労働者階級」という言葉を使用しながら歴史を振り返り、資本 - 労働関係、という経済問題が、人種や民族問題にすり替えられた時、「労働者階級」は分断され、逆に、「労働者階級」という意識が強化された時に、「労働者階級」のための政策が実現している事実を列挙している。


1910 年の労働党の躍進 (28 議席から 40 議席へ ) 、鎖工場で女性労働者たちがストライキを起こしたこと、「サフラジェット」と呼ばれる武闘派の女性参政権運動の闘士と警察との衝突。


 「この時代の労働者たちの闘いと、女性たちの闘いとはリンクしていた。両者はすべての成人男女に参政権が与えられるべきだと主張し、財産の有無や性別によって自分たちが社会から除外されるのはおかしいと声を上げた ( そして相手が聞かなければ暴れた ) のである。


 こうなると為政者のほうでは、下から突き上げてくる抵抗を何とかなだめて食い止めなければならない。 1911 年には、自由党政権が国民保険を施行し、肉体労働者と年収 160 ポンド未満の者に、疾病と失業の保険を提供。その対象には召使いたちも含まれていた。これにより、それまでは工場労働者らとの連帯感を感じることはなかった召使いたちに「自分たちも労働者なのだ」という自覚が生まれる」 (P171)



 しかし、上流階級も反撃を行う。第一次世界大戦後に、政府に協力した見返りに安定した職と住宅が得られると思っていた労働者階級が政府に対する不満を爆発させると、彼等に「社会主義者」のレッテルをはり、「非国民」と決めつけるネガティブキャンペーンを行う。その結果、「自らの愛国心を示すために保守党に投票するものも出てきた」、という。 P175



 二次大戦前の 1926 年に起きたことは多くの示唆を与えてくれる。 24 年の総選挙で保守党が政権を握り、チャーチルが財務相になった。彼は英ポンドを金本位制に戻し , 輸出産業に大打撃を与えてしまう。石炭産業では大幅な賃下げが行われ、労働者たちは「自分たちの賃金を下げなくても炭鉱主たちの利益を下げればいいではないか」と考え、それに他の労働者たちも呼応してゼネストが敢行された。参加者は 150 万人から 300 万人と言われている。リベラルや左派は「労働者たちの分別の無い行動」と非難、ボールドウィン政権はストに参加した労働者に「非国民」のレッテルをはり、彼らの代わりに働く「秦に愛国的なボランティア」を募集した。これに応えて「中流階級や上流階級の若者たちだった。大学生や若い実業家が労働者の恰好をしてトラックを運転したり、臨時警官として働いた」 (P183)


 さらに政府は警官隊を動員してスト破りを行わせた。労働者たちは、「英国の法は自分たちのような労働者を守るものではない」と気が付いた。また「労働者階級の人たちはこの時の経験により、自分たちの階級より上の人たちはその党派や思想が何であれ、いざとなれば「民主主義」の美名のもとに結束し、自分たちの抵抗を鎮圧するものなのだと学んだ」。


 「これは「右」と「左」の闘いではなく、「上」と「下」の闘いなのだという事を彼らは悟った。自分たちのために闘うものは自分たちしかいないのだという事をゼネストの経験で肝に銘じたのだった」。 P185



その次に、来るのが、「ゆりかごから墓場まで」で知られる『ベヴァリッジ報告書』に基づいて実施された行き届いた社会福祉政策である。


 「 1945 年のピ―プルの革命が凄かったのは、それが単なる「庶民によるちゃぶ台返し」で終わらずに、「こんな国だったらいいのにな」というピープルの願いが乗り移ったかのような政治家たちが登場し、労働者のささやかな願いを次々に形にして行ったことである」 P202


 ベヴァンの住宅政策。


 「通気性がよく、明るく、バスルームがあって断熱が施され、できる限り裁量の住宅」を労働者階級の人々のために建設しはじめた。


 また、「一軒ずつの住宅だけではなく、図書館、博物館、体育館や学校など総合的な街のデザインを視野に入れた文化的なニュータウンプロジェクトが英国のあちこちで進められた」 P203~4



 しかし残念ながら、このような路線は労働党自身によっても引き継がれず、保守党のサッチャーのもとで「国民みんなでまずしくなりましょう」という「緊縮財政」の結果、格差は拡大した。生活保護受給者は「たかり屋」と蔑視され、保護費の不正受給が取り上げられ、「生活保護費で豊胸手術を受けたシングルマザー」などの記事が大々的に報じられた。キャメロン首相とオズボーン財務相は、福祉削減、公務員賃上げ凍結、付加価値税凍結を発表し、戦後最大と言われる緊縮財政が始まった。


 この政権のもとで「国民投票」は行われた。「離脱派」が勝利したのは、政権への反発が一つの理由と著者は言う。「 2016 年の EU 離脱投票ののち、私も離脱派の勝利の背景には緊縮財政があると書いた」 (P273)


 そこへ、「移民」の問題が持ち込まれている。これは、「労働者階級の分断」につながると著者は主張している。



 およそローマ帝国の施策以来、「被支配者を分裂させること」は、支配者側の鉄の原則と言っていい。「もはや階級はなくなった」とか、「総中流社会」などはその典型ではないか。


 日本でも、「世代間の対立」「公務員は得している」という嘘が公然と語られている。


 もう一度、「階級」、そして「労働者階級」という言葉を真剣に考えてみてもいいと私は思っている。


 最後に、著者が直接インタビューした「労働者階級の人たち」の言葉を紹介したい。



 「俺は、英国人とか移民とかいうよりも、闘わない労働者が嫌いだ。黒人やバングラ系の移民とかはこの国に骨をうずめるつもりで来たから組合に入って英国人の労働者と一緒に闘った。でも、 EU からの移民は出稼ぎできているだけだから組合に入らない」 (P77)



「労働者の価値観ってあなたから見たらなんですか ?


  助け合うこと、困っている者や虐げられている者を見てほっとかないこと」



 この本には直接関係はないが、保守党の党首が近々のうちに決まる。いまは、「合意無き離脱」も当然アリと言っているボリス・ジョンソンがなりそうだ。 どうも私の肌に合わない。橋下を見ているようなのだ。







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Last updated  2019.07.15 20:18:36 コメントを書く


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