私の好きな☆詩☆



                宮沢賢治

   雨にも負けず 風にも負けず
   雪にも夏の暑さにも負けぬ
   丈夫な身体を持ち
   欲はなく決していからず
   いつも静かに笑っている
   一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ
   あらゆることを自分を勘定に入れずに
   よく見聞きし分かり そして忘れず
   野原の松の林の蔭の
   小さな萱葺きの小屋にいて
   東に病気の子供あれば 行って看病してやり
   西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い
   南に死にそうな人あれば 行って怖がらなくてもいいと言い
   北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い
   日照りのときは涙を流し
   寒さの夏はおろおろ歩き
   皆にデクノボーと呼ばれ
   ほめられもせず 苦にもされず
   そういうものに 私はなりたい


       雲

              宮沢賢治

   いっしゃうけんめいやってきたといっても
   ねごとみたいな
   にごりさけみたいなことだ
   ……ぬれた夜なかの焼きぼっ杭によっかかり……
   おい きゃうだい
   へんじしてくれ
   そのまっくろな雲のなかから





   山のあなたの空遠く

          (カール・ブッセ)

   山のあなたの空遠く
  「幸」住むと人のいう
   噫、われひとと尋めゆきて
   涙さしぐみかえりきぬ
   山のあなたになお遠く
   「幸」住むと人のいう

 (明治38年(1905)上田敏が、『海潮音』の中で日本に紹介) 





     小景異情

          室生犀星

   ふるさとは遠くにありて思ふもの
   そして悲しくうたふもの
   よしや
   うらぶれて異土の乏食となるとても
   帰るところにあるまじや
   ひとり都のゆふぐれに
   ふるさとおもひ泪ぐむ
   そのこころもて
   遠きみやこにかえらばや

   遠きみやこにかえらばや


      はたはたのうた  

            室生犀星

   はたはたといふさかな、
   うすべにいろのはたはた、
   はたはたがとれる日は
   はたはた雲といふ雲があらはれる。
   はたはたやいてたべるのは
   北国のこどものごちそうなり。
   はたはたみれば
   母をおもふも




     『君死にたまふことなかれ』

            与謝野晶子   

   ああ、弟よ、君に請う、
   君闇染まることなかれ。
   我が後生まれし君なれど
   引き継ぐ血脈差異あらず、
   継いだ血脈繋げよと
   長人穢れを押し付けゆ、
   穢れをまとい生き抜けと
   幼子相手に説き伏せゆ。

   聞こえ高し一族の
   鬼と呼ばれし狂い人の
   後に生まれし君なれど、
   君闇染まることなかれ。
   この血脈途絶えよと、
   途絶えたところで感はなし。
   君は知らじなつねびとの
   幼子に有りべき幸福を。

   君闇染まることなかれ。
   英雄呼ばれし亡き人も
   争い好まむ性なれば、
   その身傷付け血を流し、
   傷み抱えて生きよとは、
   心殺して生きよとは、
   教えに反する愚者なりき。

   ああ、弟よ、とこしえに
   君闇染まることなかれ。
   もはや戻れぬ深淵に
   この身沈めた我なれど、
   君想う心は真なり。
   戦に赴き、人を殺め、
   餓(かつ)へる我が心潤ほすは
   闇を知らぬ君ただ一人。

   ほんの僅かな一時の
   ぬくもりに包まれたあの頃を
   君忘るるや、思へるや。
   君を想いし存在が
   側に居たことを思ひみよ。
   この世に生まれし君の為
   ああまた誰(たれ)を頼むべき。
   君闇染まることなかれ。





   祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
   娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕はす。
   奢れる者も久しからず、ただ春の夜の夢の如し。
   猛き人も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。
      (平家物語 巻第一 祇園精舎より)




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