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2021.01.04
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テーマ: 読書(8283)
カテゴリ: 【読書】未分類

本のタイトル・作者



文庫 坂の途中の家 [ 角田光代 ]

本の目次・あらすじ


生後8カ月の娘を浴槽に落として殺した母・水穂の裁判。
補充裁判員に選ばれた3歳の娘を持つ主婦の里沙子は、彼女の姿に己を重ねていく。
子育てに協力的な夫、確執がある母、理解のある義母。
私は、幸せなはずだった。しあわせな――。
それは、日常と過去の蓋を開ける。

引用


水穂の見た景色、水穂の抱いた赤ん坊の手触り、そんなものが頭にこびりつき、思い出したくない自分の過去を、ときに脚色しながら引きずり出してくる。自分が完璧な母ではなく、泣きわめく赤ん坊をときに床に突き放し、無視し、産むのではなかったのかもしれないと思い、母になれるはずがないといじけた。だって私もあの母しか知らない。どうしても言葉の通じない、あの母しか知らないのだから、よき母親になんかなれるはずがないと絶望した。


感想


2020年読書:244冊目
おすすめ度:★★★★

すごい。
記憶の底に沈めた感情が、ぶわっと蘇って来る。

性差別的であるとは思いながら、「この気持ちを男親は理解できるのだろうか?」と考える。
苦しい。寂しい。辛い。痛い。泣きたい。助けて。
その叫びを、あげたことがあるだろうか?
誰も助けてくれない、暗闇の中で。

私は前半、あの時の自分の日記を読んでいるのかと思ったよ。
赤ん坊が生まれてから、仕事に復職するまでの、あの日々。

些細な、本当に些細なこと。
今となっては「なんであんなこと」と思える。
けれど、その時に深く傷ついていたことを思い出す。
妄執に取りつかれていた。笑えるくらい、滑稽なくらい、思いつめていた。
かさぶたを剥がす。そこにある古傷。血が滲む。

あの、閉じた、世界。
(2019.11.24「 君が生まれた日のことを 」)

こういうことは、一般的にある。
愛することは、力を奪うこと。

ああ、されたことがある、と思った。
お前には何もできない、と言われたことが。
自分もそうしてやしないかと、心配になった。

文庫本は解説を入れて500ページ。分厚い。
内容も重く、自らの記憶を引っ張り出されて辛かった。
なかなか読むのに時間がかかった。
WOWOWでドラマ化されていた( 連続ドラマW 坂の途中の家 )。
相関図を見ると、ひたすら主人公視点でしか見られないこの事件を、いろんな視点で描いているよう。
そうなんだよな。
途中、他の人の声が聴きたくなった。

物語が進むにつれて、少しずつ違和感を覚える。
公判が進んでいっているはずなのに、主人公はひたすら自分のことを見ている。手鏡を覗き込んでいるみたいに。
そこには自分しかいない。
ふと思う。
夫に、義母に、義父に、母に見ている世界は、はたしてどんな風なのか。
鏡は歪んでいる。カーブミラーみたいに屈曲している。


春にして君を離れ (ハヤカワ文庫) [ アガサ・クリスティ ]

まるでベクトルは逆なアガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』を思い出した。
人は自分の視点からしか、世界を捉えることが出来ない。
その枠組みを正しいものとして生きている。
だから、自分が掛けている眼鏡自体を疑ってしまったら―――もう何も、信じることはできない。
気付かない方が幸せだったんだろうか?
気付いた方が幸せだったんだろうか?
主人公のラストに思う。彼女は何を選択しただろう。
けれど、外したはずの眼鏡の下にすら、気付かない眼鏡があるんじゃないか?
回り続けるコマの行方を知れないように。


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最終更新日  2021.01.04 00:00:17
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