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2023.04.14
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テーマ: 読書(8559)

書名



ラブカは静かに弓を持つ [ 安壇 美緒 ]

引用




手をのばす現実はいつも、恐れの向こう側にある。


感想


2023年077冊目
★★★

本屋大賞ノミネート作品ということで読んでみた。
(4/12に結果発表、第2位でした。)

タイトルから私が想像していた話は以下の通り。

遊牧民の少女・ラブカが、獲物を得るために父から教わった弓。
しかしある日、大国の戦争が小さな村を飲み込む。
ひとり生き残ったラブカは、得意の弓で、戦禍に身を投じて行くーーー。
食うために、射れ。

ただ人を殺すために弓を引く、復讐に駆られた今の私を。

…はい、全然違いましたね!
というか想像していたストーリーライン、ほぼ『同志少女よ、敵を撃て』に『進撃の巨人』のサシャをかけ合わせたような内容だな!

というわけで、チェロの話でした。
表紙見たら分かるやん。

で、くらーい印象の表紙絵を見て、「これはあれやな、天才少年が幼少期からの厳しいレッスンに励み、やがてコンクール挫折して音楽やめちゃったけど、天真爛漫だったりオラオラだったりする音楽好きに感化されてまた音楽が好きになる系の話やな」と思ったらまた違いました。(思い込み激しすぎるやろ)

まさかのスパイものです!笑

主人公は、全日本音楽著作権連盟に属する会社員。
音楽教室で練習曲として演奏されるポップスは、著作権侵害なのか。
著作権料を徴収するため、法廷での証言が必要だーーー会社が大手音楽教室ミカサに仕掛けた罠。
潜入捜査員として白羽の矢が立てられたのは、若手社員の橘だった。

子供の頃、チェロのレッスンの帰りに誘拐されかけた橘は、その恐怖心から今も逃れられずにいた。
社命を受け、「生活に彩りを添えたい公務員」として身分を偽り、週1回のチェロの個人レッスンを始める橘。
先生と教え子たちの繋がりに、やがて橘にも変化が訪れる。

ラブカというのは、妊娠期間が長い深海魚の名前。
橘がレッスン曲として弾くことになったのが、作中映画「戦慄くラブカ」のテーマソングで、スパイもの。


音楽小説でこういう、「日常の音楽教室」がまず珍しい。
×「スパイ」ってさらに新しい。読んだことない設定だ。
読後感もよく、適度な緊張感もあり、楽しく読めた。
主人公の橘が、端正な顔立ちの無愛想鉄仮面美人という設定なので萌。
年の近い年上の浅葉先生がチャラい系コミュ強イケメンなので、また萌。
うーん、私は浅葉×橘ですね!笑

誘拐された橘、というと私はどうしても『西洋骨董洋菓子店』の橘を思い出す。
ラブカの橘が浅葉にかけられていた言葉(もう大人だから大丈夫だよ)は、なんだっけ、他の小説でも同じようなフレーズを見にしたことがあるように思った。
鏡に映った自分の姿を見て橘がハッとするシーン(想像上のちいさな子供が、すでに成人男性であることに気づく)も良かったな。

子どもの頃に、音楽を習い事としてやる人は多い。
私もピアノをやっていた。
そしてその大部分の人はプロにならない。
それでも音楽をやるということ。

レストランでの演奏会で、社会人メンバーのチームが演奏する。
普段は全然違うことを仕事にしているけれど、こうやって音楽をやることで、自分の人生悪くないなって思えるんだと、彼らは言う。
憧れのチェロ奏者のコンサートチケットを奇跡的に手に入れることができた橘は、その日まで生きていようと思う。

親が子どもにピアノを習わせる時、あらゆる習い事がそうであるけれど、「もしかしたらこの子には何かしらの才能があるんじゃないか」とか、「将来役に立つんじゃないか(あるいは将来困らないように)」という思惑が働く。
でも、本当に大切なことをそこで学ぶ(身につける)としたら、「楽しむ」ことなのかもしれない。
自分の人生の中に、音楽やスポーツや、そのためのスペースを設けて、置いておける。
大きくなってから、そこにまたアクセスすることが出来る。
それは直線的に伸びていくと仮定される世の中で、成長と効率が尊ばれる世界で、自分だけの隠れ家のような場所になるんじゃないか。
私にとってはそれが読書であるように。

老後とピアノ [ 稲垣えみ子 ] 」を読んだ時にも思った。
役に立つこと、を離れたら、そこには何があるんだろう。
私の「いつかやりたいこと」リストには、ぼんやりと「ピアノを弾く」や「ヴァイオリンを弾く」があるし、「プールで泳ぐ」もある。
自分だけの、何の役にも立たない、「楽しい」と「生きていてよかった」。
でもそれこそが、望んでいることなんじゃないかしら。

主人公の橘は、仕事としてチェロを再開する。
けれど彼はやがてのめり込み、自主練に励み、最後には自分が好きな曲(ポップスじゃなくバッハだ!)を弾けるようになりたいとまた教室へ通い始める。
今度は自分の意志で。

深い深い海の底で息を潜めていた彼は、生きながら死んでいた。
恐れながら怯えながら、ただ死を待っていた。静かに透明な空気の粒を吐き出して。
でも彼は、光を見た。
それを目掛けて泳ぎだした。

もっと綺麗な、澄んだ音を出したい。
再び弓を持った彼は、チェロを弾く。
誰のためでもなく、自分のために。
ちいさな小窓を、世界に向けて開けながら。



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最終更新日  2023.04.14 08:24:13
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