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2023.04.29
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テーマ: 読書(8559)

書名



月の立つ林で (一般書 405) [ 青山 美智子 ]

引用



リリカさんは月の満ち欠けに目を添わす。
「環境が大事って私が思うのはね、もちろん仕事場を整えることもそうだけど、周りの人たちと豊かに関係し合っていくってことよ。そのときのお互いにとっていい距離で、いい角度で」


感想


2023年90冊目
★★★

2023年本屋大賞第5位。

第一章 誰かの朝
第二章 レゴリス
第三章 お天道様
第四章 ウミガメ
第五章 針金の光

月をテーマにしたオムニバス?青山作品の、「それぞれの登場人物同士が少しずつ重なり合い、関係し合う」短編の粒が連なって、ネックレスみたいにひとつの長編になった作品。


自分がやってきたことは何だったのか。心が折れて、仕事を辞めた元看護師。
「人を楽しませたい」と上京し、お笑い芸人を目指す(「していた」になりつつある)配達員。
一人娘が急に結婚を決め、九州へ行ってしまった。妻も出産の手伝いへ向かい、ひとりになった自動車整備士。
自分に無関心な母からはやく自立したいと、ベスパ(スクーター)を手に入れ、ウーバーイーツで稼ぐ女子高生。
趣味ではじめたアクセサリー作りがプロになっていくものの、夫の無関心と物音に苛つく妻。

それぞれが偶然耳にしたポッドキャスト「タケトリ・オキナ」。
かぐや姫は元気かな。
毎回その語り口ではじまる、やさしい声で紡がれる月の話。
なんだか、文字を読んでいるだけなのに、タケトリ・オキナの優しい語り口調が聞こえてくるようでした。
私はこのタケトリ・オキナは、最後のネタバレの人のお父さんかと思っていた(声色を変えるのが得意、と文中にミスリードあったじゃん)。

ポッドキャストっていうのがいまどきの設定。

現実には知り合いに薦められてもなかなか訊かないだろうし、検索して見つけるのも大変で辿り着けない気がするけどね。

私は配達員の話が好きだったな。
なんにもなかった時代、毎日形を変える月っていうのは最高のエンタメだっただろうね、とお笑い時代の相棒が言う。
確かに。毎日色も形も大きさも変わる。それも刻々と変わっていく。
リアルタイムの、これ以上ないエンターテイメントの生上映。

夜空を見上げることも、月を探すことも、ない。

最後のアクセサリー作家の人の葛藤は、分かる。
夫、子どもに自分の時間や領域、ひいては人生を侵犯されているような感覚。
濁流にのまれるように、雑事に翻弄されて、消えていく「私」。
それを保とうとすれば、距離を置くしかないのか。
夫の無理解と無関心(に、見えるもの)から、家を出てマンションを借り、工房とした彼女。
かつて家族と離れた切り紙作家が彼女に言った言葉が、上記の引用部。
あたりまえの愛情は、無味無臭で透明なものになってしまう。

甘えているな、と私も思うことがある。
夫に、子どもに、あるいは親に。
私はこうしたいと、傲慢に振る舞うこと。
甘やかされて、赦されている。
けれどそれでも窮屈を感じて、耐えられないように感じる日もある。
有り難く思うより、疎ましく思ってしまう。

距離感。
私は遠く離れて、ひとりでいるのが好きなのだと思う。
けれどそれでは寂しくて、たまに近寄って行きたくなってしまう。
そのたびにぎこちなくて、落ち込んで、傷ついてまた離れる。
月が巡るみたいに繰り返す。笑

子どもと私、夫と私、親と私。
満ち欠けるように、その時時の距離で、関係し合っていけたらな。
相手だってそうだ。追いかけたって届かないこともある。



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最終更新日  2023.04.29 07:26:01
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