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2023.05.15
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書名



主婦である私がマルクスの「資本論」を読んだら 15冊から読み解く家事労働と資本主義の過去・現在・未来 [ チョン・アウン ]

目次


プロローグ 物事の核心にはお金の問題が潜んでいる!

1 主婦たちの暮らす離れ島
「家で遊んでるんだって?」
主婦たちの住む世界はどうしてこうも違うのか ソースタイン・ヴェブレン『有閑階級の理論』
もう一度あの頃に戻るとしたら、やっぱり会社を辞めるだろうか レスリー・ベネッツ『女にとって仕事とはなにか』
私はどうして料理が嫌いになったのだろう ラ・ムンスク『専業主婦ですが』

2 問題の核心は“カネ”
私が生きている世界はどんなところか カール・マルクス『資本論』
私はなぜに会社を懐かしがるのか ゲオルク・ジンメル『貨幣の哲学』
どうして私はニュースに出てこないのか カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』


3 資本主義社会で女性として生きるということ
誰が、なぜ、女性に火をつけたのか シルヴィア・フェデリーチ『キャリバンと魔女』
誰が、誰に、依存しているのか マリア・ミース『国際分業と女性ーー進行する主婦化』
共存のためになにをすべきか パク・カブン『フォビアフェミニズム』
内側の見えない自分をどうのぞき込むか ロイ・バウマイスター『消耗する男』

4 境界線を越えたところの世界
なぜ、家事労働に賃金が必要なのか シルヴィア・フェデリーチ『革命のポイントゼロ』
尼僧が『父親授業』という本を出したらどんな反応がくるか 法輪『母親授業』
非婚女性と既婚女性は連帯できるか キム・ハナ、ファン・ソヌ『女ふたり、暮らしています。』
主婦はなぜ家族のことしか考えないのか ソ・ヨンナム『たんぽぽ麺屋』

エピローグ 資本主義とともに始まった陳腐な嘘
訳者あとがき
日本の読者の皆様へ チョン・アウン

引用


私が属している世界、そう、主婦の世界は、それまで私が属していた世界とは完全に異なる世界だった。それは、資本主義の時空が食い込んできていない、もしくは、わずかに食い込んできてはいるが中心部分はほとんど侵されていない、ある意味、中世に近いと表現できる場所だった。お金ではなく「関係」が中心となるところ。物質より「精神」が重要視されるところ。それゆえに宗教が大きな比重を占め、影響を与えうるところ。それが、会社を辞めてきたばかりの私が居心地悪さを感じた理由であり、同時に、その世界に身をおいていて安らぎや感動のようなものを感じる理由だった。お金を払わなければ生活に必要なものをなにひとつ手に入れられない世界に住みながら、自分がした仕事、すなわち家事に対しては一銭ももらえない人たち。


感想


2023年102冊目
★★★

韓国語原題は『あなたが家で遊んでいるという嘘』。


著者は1975年生まれ。
外資系企業で通訳・翻訳の仕事をしたのち、ヘッドハンターとして活躍。
2人めの出産を機に退職後、ビジネス書やエッセなどの翻訳を手掛ける傍ら、小説を執筆。
もともとフェミニストで、本について一般向けの講座も受け持っている。
この本は、啓蒙された!という内容ではなく、どちらかというと、そういう背景(文筆家)の人が、いろんな家事労働を巡る問題の本を読んでみた感想集、書評エッセイという感じ。

いやそれで専業主婦名乗られましても。
と思いました。

ただ、著者の言葉には「わかる〜!」と「そうなんだ〜!」があって、それはそのまま「ワーキングマザー」と「専業主婦」としての立場での共感と驚きでした。

私はワーキングマザーの世界しか生きたことがない。
専業主婦をしていたのは、産休育休をとった時くらいだ。
1人めの育休は12ヶ月、2人めは9ヶ月で復職。
そしてこういう性格で「ママ友」も出来なかったので、専業主婦の世界というものを知らないまま。

著者はワーキングマザーから専業主婦になり、そこで違和感を覚える。
そしてその正体が「資本主義ではない世界」が入り込んでいることだと気付く。
この指摘は非常に興味深かった。

資本主義の世界で生きるワーキングマザーは、労働力として評価される。
それは金銭で計られた、その存在と時間に対する「価値」である。
「物品」を生み出す労働力。

一方の専業主婦の労働は、金銭で価値を計られない世界にある。
ケア・ワーク。エッセンシャル・ワーク。
「物品」という成果で計られない「人の手」の仕事。
お金がすべての世界で、だからこそそれは、空気のように当たり前とされる。
資本主義以前の世界に女性はおかれたまま。

ここらへんは、
人新世の「資本論」 [ 斎藤幸平 ]
を読んだあとに読むと非常にわかりがよかった。

韓国で面倒な婚家の行事から逃れられる術もまた、「仕事」という言い訳というのも面白い。
資本主義の「お金」の力が、家父長制における古くからの慣習、「妻」の立場を超越するのだ。

私はいまだ『資本論』を読んだことがないので、ここらへんで一度肚を据えて読みたいなと思っている。
この本の中で紹介されていた、カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』も面白そう。

資本主義は、これまで無料だったもの・共有財だったものを、囲い込み、阻害し、値段をつけた。
そしてそこから恵みを受けていた人々は困窮し、都市工場で自分の資本(肉体と時間の労働力)を差し出し、買い叩かれて生活することになる。
都市労働者の誕生。
そして「労働力」としかみなされない存在を、家庭で衣食住を整え、また労働が可能な存在にする。
労働者の回復。労働力の再生産。
それを無償で担ったのが「主婦」だ。

魔女狩りもまた、男性の本源的蓄積のひとつだったというのは、今まで思ったことがなくて驚いた。
共同体のレベルで能力を発揮していた女性から、産婆や薬草の知識を奪い、「植民地化される女性」に対する抵抗力を奪い、隷属させていった。
なるほど。

それで、だ。
私がなぜフリーランスのライターである著者に「それで主婦を名乗られても」と思うかというと、彼女は労働力として資本主義の世界での価値を生み出しているから、なのだよね。
そしてそれは裏返すと、主婦労働を無償で価値を生み出していないもの、と私は認識しているのではないだろうか。
私が資本主義の世界にどっぷり浸かって生きているから。

お金を生み出せること、資本主義の世界で自分の労働力を高く売れること。
それは確かに、女性に力を与えた。
お金を稼げることは、裁量を、自由を得られることと同義だ。
けれど同時に、女性は資本主義にカウントされない仕事を引き受けている。
それは資本主義社会で働いていても、働いていなくても。



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最終更新日  2023.05.15 08:24:26
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