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2023.10.22
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テーマ: 読書(8559)

書名



シソンから、 (チョン・セランの本 04) [ チョン・セラン ]

感想


保健室のアン・ウニョン先生 [ チョン・セラン ]
声をあげます [ チョン・セラン ]
地球でハナだけ [ チョン・セラン ]

のチョン・セランさんの本。
これまで読んできたセランさんの本は、SFみが強くて、ディストピア感のあるファンタジーっぽいお話が多かったので、新しい本もそうなんだろうなと思っていた。

でも、NHKのラジオアプリ「らじる★らじる」で、たまたま聴き逃し配信の
カルチャーラジオ文学の世界 “弱さ”から読みとく韓国現代文学 (11)伝説の高齢女性
を聞いて、「あれ、今回は違うのかな?」と思って読みました。

これ、良かった〜。
この本、今までのセランさんの本の中で一番好きかも。
そして私、韓国の作家さん(大して読んでもないのだけど)のなかでセランさんが一番好きかも。

韓国で有名な美術家であり作家だった、シム・シソン。
朝鮮戦争時に家族を虐殺されハワイへ写真花嫁として渡るが、到着前に相手は死亡。
ハワイで洗濯婦をしていたところ、著名なドイツ人画家に見出されドイツへ渡るが破局。
ドイツで画廊経営者と結婚し韓国へ戻り子供をもうけるが、離婚。
韓国広告界の大物と再婚し、連れ子の娘も含め1男3女を育てる。
韓国の因習にとらわれず、先進的な生き方をしたことで世に名を残した。

そして彼女の死後10年。

お膳の脚が折れるほど供える祭祀の料理の代わりは、「ハワイを旅して嬉しかった瞬間、これを見るために生きてるんだなあと印象深い瞬間を集めてくること」。
子どもたちと孫たちは、それぞれハワイで思い思いの時を過ごす。

シソンから繋がる子どもたち、その配偶者、子どもたち…とたくさん登場人物がいて、また名前が覚えられないので何度も家系図を見返しながら読んだ。
このページに付箋を貼り付けておいて、すぐに参照できるようにしておくことをオススメします。

話は、彼女の著作やインタビューへの引用と、それぞれの登場人物のハワイでの過ごし方(韓国での生活の回想)が交互にあらわれる形式。

それぞれの人物の中から、「自分はこのタイプだな」と思う人を探すのも楽しい。

私はシソンの3番目の子どもであり、唯一の息子であるイ・ミョンジュンの妻、キム・ナンジョンだなあ。
この人、本ばっかり読んでるの。
娘が病気になり、長い大学病院の待ち時間に本格的に読み始めたのがはじまり。
娘が回復しても、病気再発などの恐れから目をそらすために本を読み続けた。


読んで読んで、また読んだ。お寺などに行って石を積んで願い事をする人みたいに、本の塔を積み上げた。(略)
「あんたみたいにいっぱい読む人は、いつか書くことになるのよ」
ある日、何でそんな考えに至ったのか、シム・シソン女史はナンジョンにそう言った。(略)
「インプットがあればアウトプットもあるってこと。それが自然でしょ」


彼女はどこでも本を読む。
ハワイのバスは進むのが遅くて本が読めると喜ぶ。
ハワイの移民世代の本を読みながら、実際に出てくる地名が通りにあるのを見て三次元読書を楽しむ。

「あんたまでおばあちゃんみたいなこと言うのやめて。書くってそんなに大したことなの?ちょっと厚かましい人ならみんなできることよ。厚かましい人たちが世の中に山ほど放り出した塵芥の中で道を確保して、ほんとに読むべきものを探す方が難しいんだから」


わかる〜!!笑

作中に、シソンが若かりし頃に描いた絵の話が出てくる。
それは西洋の甲冑の上を這っていく小さい蟹の絵で、蟹は「甲乙丙」の「甲」(最初に現れる最上のもの、最も優れた固いもの)として、屏風に描かれるアジアではなじみのある視覚コードなのだという。
私これ知らなかった。

この本を読んでいても思うのだけれど、たぶん作者の段階で物語が「100」だとしたら、その作者と同じ言語と文化的背景を持つ人なら80〜90くらい受容できて、今回だとアジア人ということで私の受容は60〜70くらいで、さらにそこから離れた文化圏なら40〜50くらいになるんじゃないだろうか。あるいはそれ以下に。
徐々に網の目が大きくなる、というか。取りこぼしが増える。
それでも残って届くもの、人間の本質的なものが、言葉が変わっても翻訳になっても通用する「物語の持つ力」なんだろうけど、私は自分がどれほど多くのものを「通過」しているんだろうな、と思う。
物語の中で、気づかないうちに。

『シソンから、』の「、」は彼女から繋がる世代を意味しているそう。
そういえば、高橋源一郎さんがマンガ『チ。-地球の運動について-』に本で触れていて、この「。」は地動説について意味したタイトル(。は停止の状態)だと紹介していた。
句読点だけで広がりが持たせられるのも言葉の面白さだなあ。
そういえば『推し、燃ゆ。』が『Idol, Burning』と英訳されたタイトルになっていることにも言及していたっけ。
これはイコールではないよね。
それこそその言語話者であることの「網目」が違うということ。

私は英語を勉強していて、それは英語で情報を得られるようになりたい、英語で本を読めるようになりたいからだけれど、私の網目はザルなんだろうなと思う。
どれだけ勉強しても、意思疎通に問題はなくなっても。
それが悲しくもある。


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最終更新日  2023.10.22 00:00:15
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