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2005/05/20
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カテゴリ: novel
「…何…?まだ思い出せないよ…」

その時、男の言う事に曖昧ながら何かを感じ取り、しかし、男の言う涙が一体何なのか見当もつかずにいた。

「…俺、本当ならここにいないんだ。もう、死んでたはずだから」

でも、漠然と予想をするなら、きっと夢がそのまま事実になるのだろうと薄々感じていた。

「…」

「…?驚かないのか?」

はぃ?深刻な顔をしながらあまりに突拍子の無い質問に唖然とした。

「…冗談なの?」

「まさか」



「…」

少し、冗談染みた男の顔は、急に豹変し、私は直視できないほどに、目はギラギラとしていた。

「俺、自殺しようとしたんだ。俺、こう見えても気味が悪いくらい正義だったんだ」

「…正義?」

「そう。親友であろうと悪事を働けば、信念に従って裁いてやった。それが正しいし、他の道は無いと思っていた」

「…」

「ある時、俺は不要になった。奴らの事を思ってした事は全て裏目に出て、どこにいても煙たがられる存在になって…」

私は…

「俺は正義を止めた。でも、悪にもならなかった。無になったんだ」

…私は…

「居ても居なくても同じ存在。そんな奴かな。そうしてると、急に無常を感じたんだ」



「居なくても同じなら居ない方が俺としては楽なんじゃないかって。死んで始めて、俺の存在は知られるのさ」

…違う…

「だから俺は…」

「次の日、自宅のマンションの屋上に出て飛び降りようとした。柵を乗り越えて」

「!!」



「違う。結末はそうじゃない」

「あなたはこの話を私にしてくれた。屋上から引っ張り出した時に。全く同じ話を…」

「色々、変わるもんなんだよ…」

「…?」

「お前は俺の飛び降りるのを妨げて、何回も引っ叩いた。痛いのは俺なのに泣くのはお前ばかり」

「…」

「必死に泣いて自殺の理由も問わずに“命を安物にしちゃいけない!”って正義をかましてくれた」

そう…私は…

「俺は正義の裏にたまった悪の全てが飛び出した。お前に思いっきり振り撒いてやった」

「…ち…ちが」

「違わない。それでもお前は見知らぬ俺のために必死に泣くんだ。そんなの絶対間違ってるって」

「あなたの嫌いな…正義よ…?」

「蒼い涙。信じられないほど透き通って、お前の頬を伝って雫になって落ちた。俺は何か思い知った」

「…?」

「そう、俺は下心のある偽りの正義で、お前は誰もが認めるような真の正義、嫌と言うほど見せ付けられた」

「…」

「俺は正義だからこそ知れた、“良い子”の弱点を躊躇わずに一気に掃き捨ててやった」

…ぁ…そう…この人は…悪…。

「するとお前は涙も止まり何事も無かったかのように目の前を去った。最初は勝ち誇ったような気分だったよ」

…ぃや…

「でも、異様なまでの豹変に俺は怖くなり、お前を探しまわした。やっと見つけたら俺は覚えてない、記憶が無いなど…」

…だめ…!

「ふざけた事を抜かしてくれた」

「ち…近寄らないで…!」

「…」

男の目は、死んでいた。私は怯える事しか出来なかった。

「それで…俺は……お前の記憶を取り戻そうと…色々…したんだ…」

彼は目だけでなく口も覚束なくなりそうだった。

「なのに…会う度に俺を…忘れてくれ…るもん…だから……大変だった…」

「喋らないで!!」

「…この罪を…お前の涙を取り戻す為…なら…と…なんで…も…したさ…」

「…だめ…!」

「体が…おかしくなり…もう…本当の事を…話す事でしか……無理だと…気付いて…」

「待って…!今、救急車呼ぶから!!」

私は強がっていた彼が、いきなり病弱な姿に変わりゆく様を、ただ涙を流して見ることしか出来なかった。

「…なみ…だ……思い……だ…」

「…ぅん…!分かったから…!」

遠くで救急車の音が夜空に響いた。



彼は儚いその命を引き取った。だが、決して安売りはしなかった。

彼は私の失った記憶を運んできた。そこには、私の忘れた事が沢山あった。

悪意ばかりが表に出ていた私が、正義を思い出した。

もう、放火など考えたりしないだろう。これっぽっちも。



屋上に私は一人でた。屋上の中央に小さな手紙が置いてあった。

彼の最初で最後の手紙だ。私は白い便箋を丁寧に読み始めた。

そこには彼なりの正義が溢れていた。








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Last updated  2005/05/21 12:48:11 AM
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