物語道州制(7) 沖縄州のあらまし
(街づくり公聴会)
午後5時になった。早速、帰り支度をする。遊びにいくわけではない。7時から自宅近
くの公民館で自治体主催の公聴会があるのだ。きょうの議題は、農地転用を認めるべ
きか否かを住民皆で話し合うというもの。決定権はないものの、自治体の開発許可に影
響を与える性格の住民集会である。この政策住民参加制度は、興味の分野は選べるもの
の地域住民の義務となっている。私は、自分で菜園もつくっているので、農業部門を選
んでいる。
私も農作業の手伝いに行くので、よく知っているサトウキビ農家が、畑を東京の業者
に売りたいとして自治体に申請したのだ。業者はリゾート施設をつくりたい意向のよう
だ。以前であれば、役所とは別組織の公務員である農業委員会が審査することになって
いたが、今は廃止され、自治体に移管されているのだ。
土地の所有権はもちろん農家がもつが、今では勝手に処分することはできない。土地
は地域社会全体のものだという精神から地域住民が決定に参画するのである。もちろん
住民側も農作業の手伝いなどで貢献をする。一定面積以上のすべての開発計画が対象と
なる。地域内に大型店が出店するようなときにも住民が意見を述べ合う。住民参加型の
街づくりが徹底している。なかでも農地転用は環境保護の面から人々の関心は高い。
地域住民100人ほどが集まって公聴会が始まった。農地所有者とデベロッパーの意
見を聞く。その後、自治体事務局の進行で住民が意見を述べ合う。私は賛成意見を表
明した。理由は、街の環境を乱さない限りは、所有者の意思を尊重するべきだからだ。
開発計画も街の雰囲気を壊すものではない。もちろん反対意見もあった。1時間ほど皆
で議論して、最終的にはこの農地尾転用に賛成という意見が過半数を超えた。
(沖縄の道州制)
沖縄県は、道州制の移行に合せて、沖縄州となった。沖縄は本来、独立国家である。
しかし、日本本土に併合され、実情に合わない各種の政策を強いられてきた、という不
信を、沖縄州民は強くもっている。したがって州制導入に当たっては、独自の沖縄発展
モデルをつくることに最も力点が置かれた。
沖縄本島は、南部、中部、北部の3つの地域に分けられるが、これまで那覇への一極
集中であり、州を訪問する人々は、那覇空港に降り立った後、各地へ分散していくとい
う形を採らざるを得なかった。欠点は、那覇周辺の混雑・渋滞と、他の地域が発展から
取り残されることだ。州への移行を機会に沖縄州内でも各地域が活性化するべきだとい
う認識である。具体的には、人口増加と就業場所の拡大が必要と考えられた。これまで
日本政府が主導してきたハコ物建設型では、経済効果は一過性に終わると考えた。
○二院制による議会制度
議会は衆議院と参議院の二院制である。衆議院は州民の直接選挙で選ばれる。参議
院は、州内の各市町村議会の代表と、州民の代表であるパートナー議員から構成される。
ユニークなのがこのパートナー議員制度だ。党利党略的となりがちの議会運営に市民と
しての常識力を注入するためである。
○本部半島の沖の伊江島に新空港を建設
これまでのように、人やモノの出入りを那覇に集中させる方式は、富の偏在や交通混
を招きふさわしくない。そこで那覇から70キロほど離れた、北部の本部半島海上の伊
江島に第2空港がつくられた。沖縄州の経済拡大を図るなかで那覇の容量に限界が見
込まれることと、北部地域の振興のテコとするためである。
○米軍基地の全面撤去
既に米国の力は低下して今や世界の警察として君臨することは不可能になっていた。
世界は、欧州(EU)、アジア共同体(AU)、米国の3極体制となっている。アジア
では、時間はかかったものの、経済面では既に結合されていることもあり、緩やかな統
合が実現した。したがって日米安保条約は友好的に廃止された。米軍の日本駐留はこの
点からも意味がなくなった。これをメディアは「日本海の壁の崩壊」と呼んだ。
このような背景から、米軍は今では、沖縄全州から撤退している。州本島の20%に
も及ぶ広大な跡地をどう利用するかは、まだ具体的に決まっていない。とくに嘉手納飛
行場跡地には、州都を移転させる構想やITタウンをつくろうという話がでたが、州民
から、「またハコモノを増やすのか」という批判があり、立ち消えとなった。
州が基幹産業と位置づける農業の作付用地にしようという構想もある。農業は21世
紀の花形産業であり、自給率の低い日本ではぜひとも強化しなければならない。但し、
これまでの米軍の使用で土壌が汚染されている可能性がある。したがって州では様子
を見ることとし、とりあえず自然公園として利活用することとした。地権者にはこれまで
の基地時代と同様に州政府から借地料が支払われる。また1万人近い基地関係の従業
員の雇用にも配慮が行われた。
○高福祉・高負担の社会
これまで日本は相対的に低負担低福祉の社会であった。そのため経済成長が鈍ると格
差が拡大する病根があった。沖縄州では、州民投票を行って賛同が得られたので、高福
祉・高負担型の北欧型システムを採っている。GDPに占める租税負担率は50%と高い
(日本国は25%)が、福祉面では、北欧にも負けない充実したものとなっている(なお
社会保険料を加えた国民負担率は65%となり、スウェーデンの70%には及ばないもの
のフランス並みとなっている)。
主な制度は以下である。いずれも所得制限はあるものの、概ね50%以上の人が享受で
きる。
・高校を卒業するまでの教育費は無料。
・医療費の本人負担は無料。
・65歳以上の人に月額3万円の州独自の年金を生涯にわたり給付。
・15歳までの子どもがいる家庭には、児童手当を1人当たり月額3万円支給。
・ブロードバンド回線を全州に整備し、インターネット通信料は無料。
○内需振興の経済戦略
人々が豊かさを実感できる経済は、出し手も受け手も地域で完結する内需型産業の
振興である。そこで下記の施策を強力に展開している。
・全員起業家を目指す
一人一人が、生きがいをもち、且つ経済的に豊かになる社会を目指して、コミュニテ
ィビジネスの振興をしている。地域のコミュニティセンターに「起業窓口」をつくる。
窓口には、ビジネスマンのOBが常駐、起業希望者がビジネスプランを持ち寄り、相談
にのる。開業に当っては、開業資金や当面の運営費を低利で融資する。事業運営や顧
客開拓にも最大限の支援を行う。このことで州政府は、開業率の飛躍的なアップを狙っ
ている。
・企業誘致の積極化
州になる前の沖縄県は、一国二制度の特典を受けて、工場などの誘致を行ってきたが、
あまりうまくいっていなかった。国の方でいろいろ条件をつけるためである。州では優
遇条件を拡充して、国内外からの企業誘致を強化した。とくに雇用拡大につながる事業
をする企業や、州内にノウハウが残りやすい高度の地術をもつ企業が望ましい。
・沖縄の文化を世界に発信
沖縄は琉球王朝の頃より、刀の代わりに三線を床の間に飾るといわれるように、芸能
や芸術が盛んな土地柄であった。今でもその精神は息づいており、次から次へとポップ
カルチャーが誕生し続けている土地柄である。これを発展させて文化産業大国沖縄のブ
ランドを世界に広げる。
○脱ハコモノ路線
沖縄県時代は、米軍基地を一手に沖縄に負担させている沖縄への迷惑料として多額の
補助金が交付されてきた。県や地元もタダ金ということからか、相も変わらずリゾート
ハコモノを各地に乱立させた。
発想が安易であるのでうまく行くはずはない。収入に対して経費の方が多くかかると
いうお荷物を抱え込むこととなった。雇用の増大にも人材の育成にもつながらなかった。
また観光客は所詮、短期間とどまるだけで、持続的な地域活性化はできようがないので
ある。
州政府は、地域振興の基本戦略として脱ハコモノを掲げた。施策を考えるに当たって
は、4つの原則をつくった。定住促進、人材育成、雇用増大、住民の意見尊重である。
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