ETの未来主義ブログ

ETの未来主義ブログ

2008.05.25
XML
カテゴリ: 地平線日記



  集めた金はしめて200億になった。1人1000万円だったが、1人が家族名義で複数出したヤツもいるからな。結局、今回の計画では1000人のカモを引っ掛けたことになる。もちろん細工は完璧に行ったのでもっとカモを集めることはできた。人間の金銭欲は際限がないからだ。しかし仕事の基本は、あくまで目立たず、密やかにだ。欲を掻いて世間の注目を浴びることはプロとして最低だ。当局の目にふれるのも時間の問題となる。ほどほどに稼いで、気づかれないように舞台から降りていく。これがオレの美学だ。次には別の計画を立てる。法律の隙間を突けば詐欺の手口などはいくらでも見つけることができる。

  集めたカネはさっそくスイスへ持ち込み、秘密預金をする。そして『株式会社生活者防衛市民会議』はカネを集めた3ヵ月後に倒産させる。代表のムラカミ・アキラは「消える」ことになる。といっても生物学的に消滅させるわけではない。もともとムラカミ・アキラという人間は実態がないのだ。オレは新宿の公園でダンボールハウスに寝泊りするホームレスを2人拾った。それぞれ50万円を渡して1人からは本人の「ムラカミ・アキラ」という戸籍を買い、その戸籍をもう1人に与え、『生活者防衛市民会議』代表、ムラカミ・アキラを演じさせたのだ。戸籍謄本を取り(もちろんムラカミ・アキラ本人が申請する)、もう1人のムラカミ・アキラにアパートを借りさせ、運転免許証を取得させた。ムラカミ・アキラのプロフィールは皆、でっち上げた。そこまで調べるシツコイやつなどいない。シナリオは全てオレがつくり、「ムラカミ・アキラ」に連日特訓させて彼はその通り演じた。仕事が終わった後、二人には、つまりムラカミ・アキラ1号・2号とも手切れの500万円を渡して外国に逃げてもらった。もちろんヤツらを物理的に消すことは考えていない。プロの詐欺師は手荒なことは苦手だ。むしろ知的に仕事ぶりに生きがいを感じるのだ。もっとも異国で事故に合うという可能性は否定しないがね。肝心のオレはどこにも出てこない。カモの誰にも接触していないし、前準備の段階でもオレの存在を匂わせるところはない。一番難しいのは巻き上げたカネをどうやって移転させるかだが、これも地下組織の手を借りることで可能だ。もっとも高い手数料は必要経費だ。もちろん税務申告はできないが。

  詐欺師の仕事で最も重要なことはカモからどうやってカネを巻き上げるかという基本戦略だ。脳ミソを使って法律の盲点を探る。なにしろ法律などというものは時々の政治屋とクソ役人がその場での思惑ででっち上げたものだ。だから継ぎ接ぎだらけのハンケチのようなものだ。どこかに必ず糸のほつれ目があるのだ。ここが一番大事なところだ。強盗のような無様なことをせず、いかにスマートにカネを奪うか、ここの作戦作りが詐欺の醍醐味だ。基本戦略が決まったら誰をカモにするか決めることだ。

  詐欺は心理学の実践だ。オレは本は書かないが、そこらのボンクラ学者などよりはよっぽど優れた心理学者だと自負する。外個の学者の理論をモノマネするだけの心理学者よりはより上等だ。オレの心理学は理論倒れはなく実践のなかで身につけたものだ。いわば行動心理学者だ。もちろん学会などには全く興味がない。オレの哲学は「美しい詐欺」を実践することだ。日本で起きている詐欺事件は陰惨なものが多い。知力の衰えた年寄りを騙したり、積算見積もりを誤魔化したり、ウラ金をつくったり、どれもユーモアに欠けている。これは小説の世界でも同じだ。日本の小説家が描く詐欺小説も読んでいてウンザリさせるものばかりだ。読後感が痛快なものはない。ここが海外の詐欺小説との違いだ。気候のせいか日本の小説は湿度が高いのだ。心理学といえば、人間の記憶というものは、新しいものほど鮮明だから社会で起きるニュースには常に気を配ることが大事だ。例えば、税金還付金詐欺などというのがあるだろう。「払い過ぎた税金を還付します」などと嘘を言って、銀行のATMに行かせ、手続きをさせるふりをしながら逆に送金させてしまうやり口だ。これからはああいうのが増えてくるだろうね。でも醜い詐欺手法はだね。

  オレのターゲットは小金持ちだ。大金持ちは存外、カネには淡白だ。生まれてからカネに不自由したことがないから、もっとカネが欲しいなどという発想は出てこない。この連中をカモにするのならカネより名誉の方がよい。人間、カネに欲がなくなると今度は名誉を求めだす。貧乏人はカモにしやすい。なんせ始終、カネに困っているわけだからエサを垂れればすぐ食いついてくる。しかしオレはやらないよ。困っている連中からさらに巻き上げるなどというのは美しくない、オレの詐欺美学に反することだ。かといって儲けたカネを貧乏人に分け与えるといった義賊趣味もカッコ悪い。ただこの連中には手を出さないだけだ。

 オレが最も得意にするのが小金持ちの成金のヤツラだ。急に持ち慣れない大金を手にして鷹揚になるかと思いきや、逆に欲が増大していく。自分の力で得たものではなく、単に運が良かったというだからそうなるんだろう。自分の力で手に入れたのならどうやって有効に活かすかを考える。うまい話にはウラがあると心底いつも思っているから見え透いた詐欺の手口に乗せられてしまうこともないのだ。楽をしてもっと儲けてやろうなどと歪んだ考えをするから、オレたちの仕掛けに乗りやすい。オレもこいつらから騙し取ることには何の心の痛みも感じない。身包みはがれても元に戻るだけの話しだ。

  カモが決まったらいかに自分のペースに巻き込むか、そのことを考える。人間という生き物は無意識という闇の世界をもっている。何かを決定するときは意識の中で行っている。自分らしさというものもこの意識世界のなせる業だ。そして意識と無意識は常に行ったり来たり交流をしているのだ。時々、夢を見るだろう。目が覚めてそれを覚えているとき、何であんなことをしたのだろう、と思うときがあるけれどそれは無意識という、もう一人の自分が「こころ」の中にいるかららしい。だから、何かを企んで誰かにそれをさせようと思えば、無意識世界に働きかけてやってそいつの意識世界に呼び込んでやればよいのだ。

  ところでこの成金という人種は、何せ欲が顔一杯に出ている連中だ。それは訓練するは見ていて分かるよ。鼻の穴が膨らむんだけど当の本人は欲を抑えよう制御しようとする、すると表情が歪むんだ。これがカモのサインだ。もっともおいしい話しを切り出されるとまず疑ってかかるのもこの連中だ。だからヤツラが想像すると思われる疑いをあらゆる手法を使って解いていくんだ。ヤツラがもっている疑り心を取り去ってしまえば、後は如何様にも料理できる。人間は意識の方向性を統合しようとするから、疑りを捨ててしまえば信念に変わる。その後、信念を覆しかねない事実が出てきても、今度はそれを否定するようになってしまう。そうしないと心の統合を維持できなくなって精神分裂症になってしまう。そうなれば味噌味でもしょうゆ味でも味付けはこちらの思いのままだ。もっとも少しずつ徐々に進めるのが大事だ。人間の意識は急激な変化は望まない。それは逆効果になってしまう。だからいきなり本題に踏み込むのもダメだ。女を落とすときと同じだ。最初はゆっくりと控えめにアプローチする。心理的にジリジリさせておいて、頃合を見てスピードを速めていく。相手の方から迫ってくるようにするのが詐欺の醍醐味だ。そして最後に釣り上げる。大きなお土産をもたせて。



 こんな緊張を強いられるから毎日のように詐欺を働くということはできない。ほとぼりを冷ませてから再び仕事に取り掛かるということになる。人生の終始決算から言えば堅気のサラリーマンの方が得といえるかもしれない。しかしこの仕事は一度始めたら止められない。自分の頭をつかって金持ちからカネを巻き上げる、これは一種のスポーツだ。社会の富の再配分という言い方もできる。「悪銭身につかず」とはよくいったもので、詐欺師はカネづかいも荒いのだ。経費もそれだけかかる。まあ、その分、カネを還流させているわけで社会の役に立っているといえるのかもしれない。いや、これは言いすぎかな。さて今度は誰をどうやって騙してやろうか、考えるだけで楽しいな。

 どうしたら詐欺に合わないようにすることができるかって? そんなことは不可能だよ。人はふだん理性的にふるまっているつもりでも実は、矛盾の固まりなんだ。「自分は大丈夫」などと人間こそ逆に騙しやすい。コップに氷を浮かべたときを考えるとわかりやすい。水が多いときは水面上の氷の面積は小さい、しかし、水の量が少なくなればなるほど氷の面積は大きくなる。上に浮かんだ氷の部分が意識、水のなかの氷が無意識だ。ところで人間は思考と感情の間で意識状態はいったりきたりする。感情の力が高くなれば合理的な思考能力は減退する。そして一度、決めた決定は信念となり固定化する。この人の心理作用を詐欺師は利用するんだ。誰もが精神分析医にかかるわけではない、自分のなかだけで自分の心理状態をコントロールすることは至難の業だ。詐欺師は人間の無意識に働きかけて人間心理を操作するんだ。詐欺などといわずに知的仕事師と呼んでほしいね。ビル・エヴァンスのようにクールに仕事をする、それがオレの理想だ(完)。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008.05.25 07:16:12 コメントを書く
[地平線日記] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

プロフィール

MASAGO2412

MASAGO2412

バックナンバー

2026.08
2026.07
2026.06
2026.05
2026.04

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: