2-3 半年



人知れず感謝の言葉を呟いた直後、突然寝室のドアが開き、篤が朝子に声をかけた。

「ママ~、風呂から出たなら出たって言って・・・あれ? そのスカートどうしたの? そんな可愛い服買うなんて珍しいね」

朝子は慌てて流れた涙を拭った。

「うん・・・何だかすっかり惚れ込んじゃって・・・」このスカートをくれた男にね、と朝子は心で付け加え、キスマークが隠れるよう、首にタオルをかけた。

「ふうん」篤はそう言うと、朝子のスカートをまじまじと見つめた。「・・・もしかして、俺のこと誘ってる?」

朝子は不思議に思い、自分の下半身を見下げた。深いスリットが彼女の艶かしい腿をあらわにし、よく見ると薄いスカートからはショーツが透けている。

・・・!? 有芯の・・・スケベ!!

篤は朝子に近づくと、ゆっくりと、しかし強く彼女を抱き締めた。キスをしようとする篤を遮り、朝子は慌てて聞いた。

「・・・ね、ちょっと待って?! ・・・いちひとは?」

「待ってる間に寝ちゃったよ。疲れたんだろうね」

言いながら、篤は朝子を強い力でベッドに押し倒した。

「今日は抱くよ・・・いいよね? 俺、ずいぶん待ったんだから・・・」

朝子は表情のない目で篤を見上げ言った。「駄目」

篤の顔が強張った。「・・・なんで?」

「前から言ってるでしょ、感染の危険があるから、よくなるまでセックスは無理だって」

「朝子・・・」篤は明らかに気分を害している。「俺、何か悪いことした?! 早く帰ってきて、いちひとの面倒も見たよ。頑張ってるのに何でだよ?!」

早く帰ってきたのは、単にやりたかったからでしょう?! 朝子は心でそう悪態をついた。

「それとこれとは話が別よ。せっかくだんだんよくなってきてるのに、ここでばい菌でも入ったら、もっと長い間お預けになるのよ?!」

よくもまあすらすらと大嘘が出てくるものね、と、朝子は罪悪感から心で自分を揶揄した。

「でもなぁ!」篤はついに目を吊り上げ怒鳴った。「俺、もう1年近く我慢してるぞ?!」

「そんなに長くないわ。約半年よ」朝子はベッドの上で冷静に言った。

「それでも長すぎる! ね、しよう・・・優しくするから」

「ふーん、優しくするって言って、滅茶苦茶乱暴にして私を傷つけたのは誰だっけ?」

朝子が冷たく言い放つと、途端に篤はうなだれた。「・・・ごめん」

「それはいいわよ、今の話とは関係ないんだから。とにかくまだ無理。・・・それに疲れてそういう気になれないわ」

朝子は起き上がると、タオルで頭を軽く拭きながら寝室を出ようとした。



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