2-5 初恋



先輩は煙草を燻らせ頬杖をつきながら、俺を珍しい生き物でも見るような目で見つめた。どうやら呆れているようだ。制服の短いスカートから伸びる、組まれた白い脚がやけにまぶしい。

「好きでもない女とやって気持ちいいの?」

「うん。でも俺、誰とでもやるわけじゃないですよ? 寄って来る女の中で、中の上から上のやつ。あとは願い下げかな~」

自分よりはるかに大人びた先輩に対抗しようと、精一杯大人ぶったつもりだったが、返ってきた先輩の言葉に俺は少なからず傷ついた。

「へ~ぇ。ガキだなぁ」

「なんでですか? 来るもの拒まず、去る者追わずですよ。てか誰とやってもしてることは一緒だし」

先輩は口の端だけで笑うと言った。「そう思ってるところが、青いんだよ。あんた本気で好きな女と寝たことないでしょ」

俺はむっとした。今思えば、それは図星だったからだ。

「そういう先輩はどうなんですか?」

先輩は窓の外をチラリと見た。「さぁね・・・でも、少なくとも女は、好きでもない男に触られようが抱かれようが、何にも感じない生き物なのよ」

「はぁ~~嘘だろ!?」

先輩は俺に向き直ると、悪戯っぽく笑った。「嘘だと思うなら、私を触ってみる? どんなテクを駆使されようが、声1つあげない自信あるわよ」

俺はしばらく二の句が継げず、やがて己の完全敗北を悟った。

「・・・参りました・・・」

「よろしい。それからもう、敬語使わないでくれる? 面倒くさくってキライなのよ。キミ! あとヨロシク」

先輩はそう言うとにっこり笑って、くわえていたセイラムを、俺のポカンと開いた唇に挟むと、スタスタとどこかへ行ってしまった。

俺はぼうっと座ったまま、まだ半分以上残っている火のついた煙草に視線を落とすと、思い切り煙を吸い込んだ。煙草の煙には慣れているはずなのに、なぜか頭がくらくらし、胸が甘く痛んでいた。



先輩・・・。

俺の・・・初めて、愛した人・・・。

初めて抱いた・・・本当に好きな女・・・。

先輩・・・あんたの名前を呼びたい・・・でもなぜだ・・・さっきから・・・口が動かない・・・・・!!

あ・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・



「朝子・・・!!」



言えた、と思った瞬間、有芯はパチリと目を開けた。

「あ・・・・?!」

ここは、どこだ?!

そこは、演劇部御用達の部室ではなかった。

有芯は、病室の真っ白なベッドの上に横たわっていた。



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