2-9 自嘲



次の日の朝が来た。

有芯は明るい光の射す窓を見ていた。有芯の病室は1階で、すぐ外には木があり、遠くに入院患者たちが集まる休憩スペースが見える。

和やかな風景。しかし有芯はうつろな目で、無感動にそれらを眺めているだけだった。彼は昨夜、一睡もしていない。

だが今はようやく、気分も落ち着いてきた。

朝子・・・。

あのドンカン女、俺からの最初で最後のプレゼントに気付いただろうか。

有芯は、商店街で朝子がやきもちをやいた女たちを、本当に見ていなかった。あの時彼はその後ろ、服屋に掛けてあったスカートを見ていたのだ。

愛する女のためにプレゼントでもしてみるか・・・。

そう思い、朝子がパフェを選んでいる間に、隙を見て店に走ったのだった。

彼は朝子を想いながら慌てて走る自分の姿を思い浮かべ、自嘲気味にクスリと笑った。

バカだな、俺は。

それから朝子につけたたくさんのキスマークのことを思い浮かべた。

わざとじゃなかった。ただ夢中で口づけていたら、知らずに跡がついていた。でもあれで、しばらくは旦那にあいつを抱かせないで済むだろう。ラッキー・・・。

有芯はため息をついた。

バカだ、俺は。

有芯は奥歯をギリギリ音がするほど噛み締めた。

あんなキスマークがいつまでもつ?

あんなもの、すぐに消えてしまうじゃないか。

そして、あいつは俺の女じゃない。

これから先も、ずっと―――。

「・・・信じたくねぇ。朝子・・・」

“仕返しはこれで充分ね。―――すごく迷惑だから!”

「何で・・・大嘘ついた、お前・・・・?!」

有芯は凍えるように震える自分の体を抱き締めた。

「バカ・・・ヤロウ・・・あさこ・・・」

有芯は歯をくいしばり耐えた。

しかしついに感情が、彼の抑えられる範囲を超え、有芯は獣のように叫びだした。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――!!」




10へ


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: