2-12 解雇



退院した有芯は、飛行機で北陸に降り立った。こちらの空も気持ちよく晴れ渡っており、腕に巻いた包帯の白さが眩しく感じるほどだった。

彼はタクシーに乗り、まず地元の携帯ショップに向かった。いつもの場所にはちゃんと店があり、有芯はほっとした。

4日ぶりに携帯電話が手元にある。彼は基本設定を変えたりしながらアスファルトを歩いた。

しかし突然に電話が鳴り、有芯は慌てて出た。

「雨宮くん!!」

課長の怒った声に、有芯は一瞬何が起こったのか理解できずにいた。

「課長、どうかしましたか?」

「どうかしたのかじゃないよ! 携帯がずっと不通だったじゃないか! 一体君は何をやっていたんだ?!」

「何って」有芯は一瞬、朝子とのことを思い出し言葉に詰まったが、気を取り直し答えた。「・・・見舞いですよ」

中年の課長は、その返答に怒りを爆発させた。「そうじゃない!! なぜ連絡が取れない状態を放っておいたと聞いているんだ!!」

「はぁ・・・それは申しわけありませんでした。でも俺はちゃんとGWと有給を使って、休みの連絡を・・・」

「とにかく、君は本日限りで解雇だ!」

「はぁっ?! ちょっと待ってください!! 俺まだ車のローンだってあって、ボーナス払いも」

「そういうわけだから、明細を取りに一度社にこい! それが最後の出社になるがな!」

課長はそこまで言うと、一方的に電話を切ってしまった。

有芯は、携帯を見つめたまま、しばらく呆然としていた。

何で今まで気付かなかったんだ・・・? 営業のたぐいもしていた俺にとって、携帯は必要不可欠だった。それを放っておいたなんて。

いや・・・違うな。気付こうとしなかっただけだ。誰にも邪魔されずに、あいつと一緒にいたかった。俺だってそれほどバカじゃない。それくらいのことには自分で気付ける。

朝子との時間と・・・これからの時間。

それらの間には深い深い隔たりができていた。相容れないそれらは、きっぱりと決別し、混ざることなく別個に存在している。

しかし彼自身はそれが信じられず、否、信じるのを拒むことで、更に前に進むことができずにいた。

有芯は軽く首を振ると、再び歩き出した。



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