2-14 優しくする理由



インターホンを押すと、聞き慣れたブザーのすぐ後に、2週間前まで彼の彼女だったエミが顔を出した。有芯は、無表情を崩さずにエミを見下ろした。

「よぉ、久しぶり」

「・・・ありがとう、来てくれて」

ドアを閉めると、エミは有芯に抱きついた。

胸に顔を押し付けられ、有芯はため息をついた。「やめろよ」

「だって・・・」エミは泣きそうな声で言った。

「くっつかれたくねぇんだ」有芯はエミのわきをすり抜け、居間のソファにどっかりと腰を下ろした。彼は煙草をさっき一口ほどしか吸っていなかったことに気付き、一本出すと口にくわえ、火をつけた。

「ゆう・・・その包帯、どうしたの?」

エミがとなりに座りながら心配そうに聞いてきたが、それもわざとらしくしか聞こえない。俺がひねくれているのか、それとも本当にウソの優しさなのか。有芯はそう考えながらチラリとエミを見、それから右腕の包帯に目をやった。

「・・・お前に関係ねぇ」

「ねぇ、どうして今日はそんなに冷たいの?!」

エミの整った顔が歪み、有芯はニヤリと笑った。

「優しくする理由がない」

それが、彼の本心だった。

「・・嘘。怒ってるんでしょ?」

有芯は呆れた。この女、自分を何様だと思ってるんだ?!「さっき言わなかったか? 俺はお前のことちっとも好きじゃねぇんだ。だから怒ってないって」

「そんなこと言っちゃ嫌っ! ・・・それに、考えてくれるって言ったじゃない」

「・・・ま、そうだったな」

有芯は苦笑すると、煙草を置いてエミを抱き締め、「ごめんな」そう言うとキスをした。自分の口から吐き出される煙草の煙がエミの口に吸い込まれ、その香りを有芯は味わった。

悪くない。なかなか。

彼はふと朝子に車の中でされたキスを思い出した。

あれは、悪くないどころじゃなかった。脳髄が痺れるようなキスだった・・・。

閉じていた目を開けると、そこにはうっとりとした表情のエミがいた。有芯はショックを受けた。朝子じゃない。

「・・・ゆう?」

「・・・いや」

有芯は気分を切り替えようと頭を軽く振り、エミをソファに押し倒した。



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