2-17 SevenStars



智紀は退屈そうにため息をついた。

「あー暇だ。暇だ暇だ。なんか面白いことないのかなぁ~」

「ないね」

有芯は即答すると、もう何本目かも分からなくなった煙草に火をつけた。

「お前、新しい仕事は見つかったのか?」

「まだ、何にも」

午後の自堕落にダラダラと過ぎる時間。智紀の散らかった部屋、満タンになって溢れた灰皿。カーテンの隙間からはまぶし過ぎる光が差している。親友との語らいは自分を原点に引き戻してくれるため、有芯にとってほっとくつろげる時だった。

智紀は彼女とあまりうまくいっていないようだった。取り留めのない恋愛相談にカラ返事ばかりを返す有芯に、智紀はため息をつき言った。

「お前、年下の彼女とより戻したんだろ? 一緒にいてやらなくていいのかよ?」

「別に」

有芯は気のない返事の後、マルボロを一本取り火をつけたが、その瞬間智紀が悲鳴を上げた。

「わぁぁぁっ! それ俺の!」

「ケチケチすんじゃねぇよ一本くらい」

「貧乏なんだよ!! だいたいお前の、まだだいぶ残ってるじゃないか!」

「・・・きつくなってきた、お前のマルボロよこせ。しかしラジオ局って、儲からねぇんだな」

智紀はため息をつき「俺はまだ新入りだしな。それよりきついんなら吸うのをやめろよ」とこぼしたが、ふとあることに気付き有芯に問いかけた。

「・・・お前、またセブンスター吸ってんの?」

「・・・まぁ、気分で」

「へぇ。お前がこれ吸ってたのって、高校ん時じゃなかったっけ?」

「ああ」

有芯はマルボロをくわえたまま火のついたセブンスターを手に取り、その白い煙を見つめた。

あいつが、この香りを好きだと言ったんだ、10年前・・・・・。

「おい? ・・・なぁ、おいってば」

「あ? ・・・悪い、何だ?」

智紀はため息をつくと言った。「お前、今日やけにボーっとしてるな。さては彼女のこと考えてたんだろ」

「まあな」有芯は苦笑した。ま、“彼女”だな、女だから。

親友の恋愛に関する愚痴を聞き流しながら、有芯はもう一度セブンスターを口にくわえ、その煙を肺に流し込んだ。

胸が痛む。でも、それはタールのせいでもニコチンのせいでもない。朝子は、まるで毒物だ。本物の毒物よりも、ずっと執拗に俺を苦しめる。しかも、甘く。

有芯は、目の前を立ち昇る白い煙を見つめた。智紀の顔も、乱雑な部屋も、何も見えなくなるくらいに、じっと睨んだ。

朝子・・・。

あれから2週間以上経った今、お前は何を思って暮らしているんだ?

お前は、本当にもう俺のことを、何とも思っちゃいないのか・・・?

俺、もうお前を好きでいちゃ駄目なのかよ・・・?




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