2-20 斜陽



キミカは“俺がこんなに慌ててるのは、お前の責任でもあるんだぜ?!”と、あの日電話で言われたのをやっと思い出し、苦笑した。

「・・・なによ、そんなこと」

「俺、本当は先輩のせいだなんて、これっぽっちも思ってないから。・・・朝子は、俺のところに、来るべくして来たんだと思う。・・・だから、気にするなよ」

「・・・気にしてないわ。大丈夫よ」

キミカは苦笑いした。まさか、こんなヤツの言葉に少しでも救われる日が来るとはね・・・。

有芯はニヤリと笑うと、伸びをしながら「あーあ、朝子に逃げられて、プロポーズも断られて、一体これから俺どうすればいいんだろうなー」と言い、両手を頭の後ろで組み、だらりと下げると空を見た。そして、それを聞いたキミカは仰天した。

「プロポーズ・・・したの?! アサに?!」

「ああ、したよ」

「あの子そんなこと一言も・・・」

有芯の顔色が変わった。「・・・先輩、まさか朝子に会ったのか?!」

「ええ。・・・さっき、行ってきたの」

「さっきって、今日か?! あいつは、今どうしてるんだ?! 本当にこのままでいいと思ってるのか?!」

キミカはしばらく有芯を見つめたが、その真摯な眼差しを認めるとため息をついた。「ノーコメントよ。これ以上失言して、あんたたちを近づけたくないもの。・・・なんて、この発言自体が失言よね」

キミカはにっと笑って、ヒラヒラと手を振った。去っていく彼女の背中に、有芯は叫んだ。

「先輩?! それじゃあ、朝子は」

「言ったでしょ。ノーコメント」

キミカは思った。あーあやられた。雨宮、これは私からの選別よ。これで、あいこ。

キミカは振り返ると、呆然と立ち尽くす有芯に向かって叫んだ。「もう絶対アサを苦しめないで!! 会えば、絶対辛いから・・・もう会わないことね!」

また前を向いて歩き出したキミカの背中に、有芯の「先輩・・・ありがとう」という声がかろうじて届いた。

ありがとうだなんて、雨宮らしくない言葉ね。振り返らないであげるから感謝なさい。

キミカは湿った空気を背に感じつつ、自分のヒールが刻む音を聞き歩いた。

目前へ着々と落ちゆく太陽を、有芯がどんな気持ちで眺めているのか考えながら。




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