2-22 今、ここで



エミは祭りの花火大会で着る浴衣について嬉々として話している。

「なでしこの柄でね、すごく可愛いんだよ~~。高かったけど奮発したの! 楽しみにしててね、あたし浴衣着ると大人っぽいから!」

「はいはい、楽しみにしてるよ」

読んでいる漫画から顔も上げずに、有芯は適当な返事を返した。エミはそれが気に入らなかったようだ。

「ちょっと~ゆう!」

「ん?」

「ちゃんと聞いてたのぉ?!」

「聞いてた聞いてた」

ついにエミは、有芯の読んでいた漫画を取り上げた。

「お・・・っ、何すんだよ?!」

「ちゃんとこっち見てよぉ!!」

「・・・面倒くせぇな~。で、なんだって?」

「えぇ~~~~聞いてなかったの?!」

エミの怒りが頂点に達した。

「呆れた・・・一体ここに何しに来たの?! もういいわ、出てってよ!!」

「まぁそうカタイこと言うな」

有芯はエミを抱き寄せ、唇にそっとキスをし、今度はテレビのスイッチを入れた。しかし、すぐにエミが消してしまった。それでも呆けた顔で、テレビの画面をぼんやりと眺めている有芯に、エミはブルブルと震える手でリモコンを投げつけた。

「何フ抜けた顔してるのよ、バカみたいに! もう消したわよ?!」

それを聞いた有芯の顔から、一切の笑いが消えた。

「何だよ、テレビ見るのがそんなにいけねぇのか?!」

「そういうことじゃないの!! ・・・ねぇ、有芯」

有芯は血相を変え怒鳴った。「有芯って呼ぶな!! ・・・気味悪ぃ」

「・・・なにそれ」

「・・・・・」

有芯はソファにゴロンと横になり、エミから顔を背けるとそのまま目を閉じた。

「ねぇ・・・ゆう、本当に私のこと好き?」

「・・・好きだよ」

「じゃあ、・・・どうして私のこと避けてるの?!」

「避けてなんかねぇよ」

「嘘! ずっと避けてるじゃない! あれからずっと会ってくれなかったし、今日だってヘタな言い訳つけて逃げようとしたわ!」

有芯はチラリと怒った顔のエミを見やると、またそっぽを向いて目を閉じた。「いろいろと忙しかったんだよ」

「働いてないのに?」

「・・・お前は俺が失業してるのを、とやかく言いたいのか?」

「だから、そうじゃないの! ねぇ、話を逸らさないで! 私のこと嫌いになったの?!」

「違う」

「それなら・・・どうしてエッチもしてくれないの?」

有芯は振り返った。「は?」

「・・・仲直りした日だって、結局気分じゃないって言って、途中でやめちゃったじゃない!」

眉間にしわを寄せ、また顔を背けると有芯は言った。「気分じゃなかったんだよ」

エミは有芯の隣で膝をつき、彼の柔らかい髪を撫でた。「ねぇ今・・・抱いて」

有芯は振り返ると、今度はエミを睨んだ。「あぁ?! 何でそうなんの?」

「私が好きなら・・・今、ここで抱いて。・・・お願い」

エミは自分の胸に有芯の手を置くと、彼に覆い被さりキスをした。




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