2-35 希望の光



「有芯・・・」

有芯は朝子を見つめ、彼女の返答を待っている。

いつの間にか花火は終わっていた。窓の向こうで外灯のおぼろな光が、時折チカチカとちらついている。

朝子は戸惑った。断って、いいものかしら。

おそるおそる有芯の目を見ると、今にも溢れ出しそうな想いが分かり、朝子は何も言えなくなってしまった。

有芯は朝子の沈黙をOKサインだと理解し、そっと唇を重ねると、彼女の下着に手をかけた。

その時―――。

ドカドカドカ・・・ッ。

有芯の頭上に大量の台本が降ってきて、思わず二人は飛びのき、しばらくあ然とした。

「・・・・・・・ぶっ」

先に吹き出したのは朝子だった。「あははは・・・演劇の神様のバチがあたったわね!」

「ちぇっ」有芯はふてくされたが、笑っている。「なんだよ、このタイミング!」

朝子は、しゃがんで憎憎しげに台本を小突く有芯を見つめ、「大丈夫、次に会ったら・・・腰が砕けるまで求めてあげる」そう言い、微笑むと彼の頬に優しくキスをした。

二人は落ちた台本をきちんと片付け、かつて共に演劇に励んだ部屋を出た。

きっともう二度と、ここに来る事はないんでしょうね・・・。朝子は知らずに振り返り思っていた。

私たちはもう、ここから一歩を踏み出したのだから。

もうあの頃の私たちじゃない。もうあなたには何も隠さない。ずいぶん遠回りしたけれど、有芯を・・・これからはまっすぐに愛していきたい。

まだまだ乗り越えなければならないことが山ほどあるけれど、あなたと一緒ならきっと乗り越えられる。・・・乗り越えてみせる。

二人は公園の少し手前まで来ると、繋いでいた手を離した。

「じゃあ・・・」

去りゆく朝子の手首を掴み、有芯は自分の胸に彼女を引き寄せ抱きしめた。

「ごめん・・・・・自分から言っておいて・・・なのに、お前を帰すのが嫌なんだ」

「有芯・・・。大丈夫」

朝子は背伸びをして、有芯の頭を撫でた。

「迎えに来てくれるんでしょう?」

有芯は無言で頷いた。

「私は、あなたを信じてる。誰よりも、何よりも」

「・・・うん」

「だから―――信じてて」

「・・・・・ああ」

「不安そうな顔しないで。・・・行けないじゃない」

朝子が苦笑すると、有芯はため息をつき「だってお前は・・・。いや、何でもない」そう言うと、後ろ頭をぐしゃぐしゃとかき回した。

「旦那と子供が待ってるだろ。・・・行ってこいよ」

有芯はあえて「帰れ」と言わなかった。朝子はそれに気付き、彼を真っ直ぐに見つめた。

「・・・行ってくる」

朝子は有芯に背を向け、いちひとと篤を探しに走っていった。

その先に待っているのは、希望の光なんだと信じて疑わずに。




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