2-49 いちひとの変化



「ごめんね・・・急に出張が早まっちゃって」

篤は申し訳なさそうに、朝子といちひとに謝った。朝子は苦笑し、首を振る。

「仕方ないじゃない、仕事なんだもの」

「パパがいないなんて、つまんないー!」

文句ばかり言ういちひとを、朝子は優しくなだめた。「仕方ないでしょう、パパがお仕事に行かなかったら、いちひとすきなおもちゃもお菓子もないんだよ?!」

「そんなのやだ!!」

「じゃ、我慢できるね」

「やだっ!!」

「も~う・・・。パパ、ごめんなさいね」

「いや、俺こそごめんね・・・いちひと、3日で帰ってくるから。帰ったらい~っぱい遊ぼうな。ママと3人で」

「・・・うん。絶対だよ?!」

朝子は苦笑し、篤のネクタイを直した。「・・・そうね。行ってらっしゃい。気をつけてね、篤」

「どうしたんだ? 篤なんて呼んで」篤は照れながらも嬉しそうな顔をし、ドアに手をかけた。

「行ってくる」

ドアがバタンと閉まった。朝子は、心の中で呟いた。

さよなら・・・・・篤。

朝子はキッチンに戻ると、作りかけのパイ生地を見ながらいちひととパズルをして遊んだ。

「いちひと、ピース、ここに落ちてるよ~」

「・・・・・うん」

「これはどこだろうねー?」

いちひとが顔を上げずに言った。「・・・ねぇ、ママ」

「ん?」

「あっち行っててくれない?」

「・・・・・え?」

「ママ、邪魔!!」

「・・・・・!」

朝子は衝撃で固まった。今まで息子にそんな反抗的な態度をとられたことは一度もなかったからだ。

心ががくがく震えるのを何とか抑えると、彼女はいちひとのかばんを手に取り言った。

「さぁ、保育園の時間だよ」

「はーい」いちひとはけろりとしてかばんを肩に掛けた。

反抗期かしら・・・? 朝子はざわつく心を抱え、いちひとと保育園への道を歩いた。途中、手を繋ごうとしたがいちひとにするりとかわされ、朝子は俯いて胸の痛みに耐えた。




50へ


© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: