2-51 抗議の声



「ちょっとあんたたち、何してんの?ここで」

朝子の声に振り返った男達は、近くで見ると彼女が思ったより相当若そうだ。

若い男3人は、しらけた顔で朝子を品定めでもするかのようにじろじろ見てから、面倒くさそうに言った。

「は? 何、オバサン」

朝子は軽いため息をつき、僅かに苦笑した。「ちょっと失礼じゃない? 私、まだ20代なんだけど」

「俺19だぜ」

「俺、20歳」

「俺らから見たら、あんた充分オバサンだって」

「あらそう」議論は無駄だと判断し朝子はこの話題を終わらせることにした。

「ところで、ここで何してるの? 誰か待ってるの?」

男たちはあからさまに馬鹿にしたような笑いを浮かべた。やっぱりこいつら、年齢よりもガキくさいわね、と朝子は冷静に思った。

「二股かけてた男を待ってるんだよ」

「二股?」

「ああ、そいつ、彼女がいるのに人妻にまで手、出してたらしくて、俺らでシメてやろうかと思って」

人妻・・・・・ん? ひょっとして、それ、私のこと?!

何でこいつらが私たちのことを知ってるのよ? ・・・どうなってるの、有芯?!

朝子はため息をつき、しばし考えた。一応だいたいの事情は分かった。つまり・・・また私のせいで、有芯が狙われてるって訳ね・・・。だったら・・・やっぱりこのまま見過ごすわけにはいかないわ・・・・・!!

朝子が決意を固めた瞬間、男の一人がせせら笑った。

「そんな所帯じみたオバサン放っておこうぜ~?」

いいわ。絶好の手出しする言い訳ができた。

朝子は肩に掛けているバッグの紐をきゅっと握り、邪魔にならないよう背中側に荷物を移動させた。「・・・所帯じみてて、何が悪ぃんだよ?」

「は?」

面食らう男達を、朝子は落ち着き払い見回した。

「所帯持つってのがどういうことかもわからねぇガキのくせに、偉そうな口叩くんじゃねぇ」

「おいおい何だこのオバサン、俺らにケンカ売ってるぜ?!」

次の瞬間、真ん中の男がしりもちをついた。朝子が足払いをかけたのだ。

なめんじゃないわよ。これでも、高校時代は不良の集団といわれた演劇部を束ねてたのよ。他の不良とだって何度も戦り合った。10年のブランクはあるけど、こいつらくらい充分よ―――!

朝子は振り上げた腕を下ろすともう一人の男の股間めがけて膝蹴りした。その男は無言でもがいているが、朝子はもう一人の男に後ろから捕まってしまった。彼女が冷徹な目で振り返り睨むと、男の目は一瞬たじろいだ。その隙をついて朝子は身を翻し、男が地面に転がったが、足払いで倒れていた男が朝子の背中から飛びかかってきた。バランスが崩れ、朝子の身体が地面に倒れゆく。

―――赤ちゃん・・・っ!

朝子は咄嗟に片膝を前に出し腹をかばった。衝撃と共に両手と膝に痛みが走り、ほっとしたのも束の間、彼女の背中を男が踏んだ。

「つ・・・っ」朝子の顔に苦悶が広がった。

「オバサン、トシなのに無理すると怪我するよ?」

3人に囲まれ、朝子は首だけ上げると全員の顔を順番に睨んだ。

「あんたたちが誰に用事なのかは知ったことじゃないわ。でもね、女のたのみでヤサ男一人やるのに、3人がかりとは一体どういう神経よ、えぇ?! あんたたち全員その娘が好きなら、一人一人単独でやりなさいよ!! うじうじ固まって暴力振るうようなヤツに、女が本気になるわけねぇだろうが!!」

「おいおい口に気をつけろォ~?!」

一人がそう言いながら、朝子の頬をつま先で蹴ったその時、突然背後から抗議の声が聞こえた。

「・・・ちょっと待て誰がヤサ男だって?」




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