2-52 灯台、下暗し



その声と同時に、朝子の頬を蹴った男がドサッと倒れた。倒れた男は気を失っている。

朝子は地面に伏したまま顔をそちらに向けた。「有・・・芯」

有芯は朝子をチラリとだけ見ると、「お前ら3人掛かりでも女にしか勝てねぇのか? クズが」そう言い、男がナイフを出そうとしている隙をつき腹に拳を打ち込んだ。

「くそっ・・・」

朝子の背中に足を乗せていた男が、彼女から離れ有芯に掴みかかろうとしたが、すかさず彼が脛を蹴ったので、うずくまって動かなくなった。

「・・・介抱くらいしてやれよ。3人そろって、仲良しこよしなんだろ? しっかしエミにもなめられたもんだぜ。こんな弱い奴らをよこすなんて」

有芯は無表情でそう言うと、そこで初めて朝子をじっと見つめた。

気まずい雰囲気に朝子は「・・・じゃ、じゃあね!」と言って逃げようとしたが、「おい待てよ」と、簡単に呼び止められてしまった。

朝子は平常心を装おうと、引きつる顔でごまかし笑いをしたが、その姿はかなり滑稽だった。「な、何?」

「何じゃねぇだろ? 俺お前に聞きたいこと山ほどあるぜ?」

有芯は無表情のまま、親指で朝子の膝を示した。そこはひどく擦り剥けて血が流れている。

「来いよ、うちに包帯くらいあると思うから」

「え? いいよこのくらい」

「ふざけんじゃねぇ。そんなに血を垂れ流しながら歩いてる女なんて誰も見たくねぇよ」

有芯は無表情で強引に朝子の腕をひっぱった。

「待ってよ、家って、遠いじゃない!」

「遠くねえよ、ここ、俺んち」有芯は目の前のアパートを指差した。

「は?」

朝子は一瞬訳がわからず、しばらく後に言葉の意味を理解すると愕然とした。・・・灯台下暗し。まさか新しい産院の3件隣に有芯が住んでるなんて・・・・・!

「知らないでケンカしてたのか? ・・・・・引っ越したんだよ、いろいろあって。・・・いいから来い!」

有芯は怒った顔で朝子の腕を掴み、アパートの階段を上った。




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