2-61 嘘つき



有芯は朝子から唇を離すと、震えながら彼女の服を捲りあげ、ブラジャーのホックを外して胸を愛撫し始めた。

その柔らかく暖かい乳房は、有芯の中に僅かに残っていた理性全てを取り去るのに充分だった。

「朝子・・・」

どんなに自分を押し殺しても・・・

どれだけ自分に言い聞かせても・・・

俺が欲しいのはお前だ・・・朝子。

朝子の中に入りたい・・・。

「・・・愛してる」

彼女の滑らかな太股を撫で、その手をスカートの中に滑り込ませようとした時、声がした。

「有芯・・・」

有芯は驚いて朝子の顔を見た。彼女はまっすぐに彼を見上げている。有芯の顔から、血の気が引いた。

聞かれてしまった。愛してる、って、言ったこと・・・。

知られてしまった。未練たらたらな俺の、淫らな欲望を・・・。

「・・・ごめん」

有芯は呟くと朝子の身体から手を離し、慌しく早足でドアへ向かった。

「待って!」

朝子の声に有芯が立ち止まると、彼女は飛び起き、振り返った有芯に抱きついた。有芯は意味が分からず、ただ呆然とするしかない。

「お前・・・どうして・・・・・」

「・・・行かないで」

「な・・・にを、言って」有芯はそれだけ言うのが精一杯だった。

「そばにいて・・・」

密着した朝子の柔らかな身体を感じながら、有芯の頭は今にも真っ白になりそうだった。

「本当は・・・あなたを守りたかったの・・・」

朝子の腕に力がこもった。その目からは涙が流れている。

「あんなに守ってもらったのに・・・私はあなたに、何も返せてないから・・・!」

「バカか。お前は俺を守ったりしなくていいんだよ。お前は大人しく守ってもらってていいんだ・・・」

「でも私・・・!」

有芯は朝子の身体をそっと包んだ。

「それに・・・お前は俺に何も返せてないわけじゃない」

彼は朝子の髪をゆっくりと撫でた。

「お前は俺を何度も助けてくれた。今の俺があるのはお前のおかげだし」

有芯は言いながら、朝子を求めて暴れだそうとする欲望と必死に戦った。俺は朝子を愛してる。だからこそ・・・抱いてはならない。

「お前が・・・元気でいてくれるだけで、俺は」

お前が元気でいてくれるだけで俺は満足だよ。

この通り、俺はまだお前を忘れられないけど・・・それも今日で終わりにする。

お前を愛してた。さようなら先輩―――。



しかし、有芯がそう続けようとした言葉の一切を朝子がキスで奪い、彼の頭は今度こそ蒼白になった。

重ねた唇をそっと離すと、真っ直ぐな目で彼を見つめ、朝子は言った。

「・・・・・嘘つき」




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