3-2 海のお星様



篤が慌てて封筒の方を開けると、中から便箋が一枚出てきた。背筋に走る猛烈な寒気を何とかやり過ごすと、彼は意を決しそれを読んだ。



『篤へ

これが最初で最後の手紙です。そう考えると、胸が痛みます。信じられないくらい、痛いです。
私は、自分がしたことの責任を、このままだととることができそうにないのです。
だからもう、あなたと一人の側にいることはできません。

覚えていますか? 初めて会った時のこと………。
私はあの時失恋でボロボロだったから、優しくて誠実なあなたが憎らしくて仕方なかった。
でも、あなたの側にいると不思議と安らぎを感じたわ。
それを考えると、私は確かにあなたを愛していたんだと思います。

覚えていますか? 一人が生まれた日のこと………。
あなたの涙を見たのは、あの時一度きりでしたね。
これから先もずっと、あの子は私たちの宝物です。

ごめんなさい。
決してあなたたちを嫌いになったわけじゃないの。
私には、あなたの妻である―――そして一人の母である資格がない。それを痛感しています。
だから、一人で遠くへ行きます。遠い遠いところへ。
このような決断をした無責任な私を、どうか憎んでください。
憎んで、そして忘れてください。

10年前、どん底にいた私を救い出してくれたこと、
そして、可愛い一人を授けてくれたこと。
感謝しています。この気持ちだけは絶対に忘れません。
書きたいことはたくさんあるはずなのに、胸がいっぱいで言葉になりません。
今まで、本当に本当にありがとう。
そして、さようなら

P.S. いちひとには、ママは海のお星様になって、海の底からいちひとを見守っているよ、と伝えてください』



篤の脳裏に、朝子がいちひとに何度も読んで聞かせていた「くろぽんとおともだち」の一説が浮かんだ。事故に遭って死んでしまったシホからのメッセージ。



“シホはおほしさまになったんだ。

うみのそこでいつもくろぽんをみてる。

だからくろぽん、だいじょうぶだよ。

あいたいときは、いつでもむねのなかであえる。

いつかくろぽんがシホをわすれても、

シホはずっときみのともだち―――”




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