3-8 先輩の親友



「先輩、大丈夫か?! ……先輩!!」

体をがくがくと強く揺さぶられ、キミカは意識を取り戻した。

「う………あ、あれ、篤くんは?」

有芯は目を覚ましたキミカを見てほっとしていたが、篤という名前を聞いた瞬間、顔全体に怒りの表情を浮かべた。

「あの野郎、先輩を吹っ飛ばしておいて、そのまま慌ててどっか行きやがった………!」

「………嘘。篤君、そんな人じゃないはずのに」

リビングの床に座り込み呆然とするキミカを見て、有芯はため息をつき後ろ頭を力なく掻いた。「案外そんな人なんじゃないか? さっきの口ぶり、かなり俺様的だったぜ。それに、あいついきなり至近距離から無防備な状態の俺を殴りつけやがった。ああいうのはな、卑怯を何とも思わねぇ奴のやり口だよ」

「でも、篤君はとってもいい旦那さんなのよ」

言いながら不安そうな顔をするキミカの前にしゃがみ、有芯は静かに言った。「俺もそう思いたかったさ。………でもさっきはっきり分かった。あの男に朝子を任せてはおけない。だってそうだろう?! 本当にとってもいい旦那さんなら、どうして朝子は逃げ出さなきゃならなかったんだよ?! それにあいつ、朝子の腹にいる赤ん坊を殺すって言ったんだぜ?!」

有芯の言葉を聞いたキミカの顔色が変わった。

「は?! ……あんた今何て言った?!」

「だからぁ、朝子の腹の子を………。先輩、もしかして……知らなかったのか?!」

キミカは目を白黒させている。

「え? ええ?! ……ちょっと待って。その……赤ちゃんってさ、もしかして……その赤ちゃんのお父さんが、あんたってことはないわよね?!」

有芯は無理矢理苦笑すると、後ろ頭を両手でぐしゃぐしゃにした。「あ、うん、それが……本当に俺みたい」

それを聞いたキミカはしばらく呆然とした後、猛烈に怒り出した。

「……………雨宮~~~~バカ!! あんたやっぱり大バカよ!! 散々あの子泣かせて!! 何やってんの?! 絶対許さない!! アサがどれだけ追い詰められてたか分かってんの?!」

有芯はキミカの前に膝をつき言った。「ごめん先輩。……本当にごめん。でも俺、朝子をあいつから取り返さなきゃならない。朝子と、子供を守りたいんだ。……だから俺は朝子を探す。あの野郎には渡さない。だから………許してくれ」

キミカは怒りでぶるぶる震えながら泣いている。「…………あんたねぇ……っ、それがどれだけ大変なことか分かってるの?!」

「分かってる。……本当は、俺が思ってる以上に大変なのかもしれない。俺の考えは甘いのかもしれない。……でもどんなに大変でも朝子を守るためなら、俺はなんでもする。絶対にもう、キミカ先輩の親友を泣かせないから……」

そう言い床に両手をつく有芯の姿を見て、キミカの目からは後から後から涙が溢れた。「バカ雨宮……っ」そしてそう言い、彼女はぐしょぐしょの顔を上げた。

「またアサを泣かせたら、今度こそ絶対に許さないわ」

「分かった。肝に命じとく」

有芯がそう言ったとき、突然キミカが彼の耳をつかんで引っ張ったので、彼はよろけてしりもちをついた。

「いてってててて! 何だよ!!」

有芯がそう言い起き上がろうとすると、キミカは無言で自分の額を有芯のそれにこつんとぶつけ、囁いた。

「必ず守ってあげて、私の親友を。……部のおまじないよ、忘れたの?」

有芯は、涙で光る頬を上げて微笑んでいるキミカをしばらくあっけに取られたまま見つめていたが、やがてニヤリと苦笑し、頷いた。




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