once 5 始まる運命



ベッドから起き出すと有芯はカーテンを開け、伸びをした。窓の外には緑豊かな町並みが広がっており、朝日をいっぱいに受けた木々は瑞々しく生気に満ちている。

彼は欠伸をしながら思った。なかなかいい部屋じゃん。それに超、いい天気。

有芯は晴れ男だ。昔から、行動的になりたい日には晴れる。彼は顔を洗い身支度を整えると、まず携帯を何とかしなければ、と部屋を出た。

彼は何の計画もなく歩きながら、思案した。えーと、地図を探すか………。

並木の連なる大通りを少し行くと、すぐに本屋が見つかった。

なんだか、やたら寂れた本屋だな、と思ったが、有芯は次を探すのが面倒でそこに入った。

店はしんとしていて、かび臭く、外とはまるで違う冷たい空気が流れている。整頓されていない古い本が、憎らしげに有芯を監視でもしているかのようだ。

彼は身震いすると、怪訝な顔で辺りを見回した。なんだ………ここは。背筋が寒い。

「暑いでひょ?」

花柄のシャツに緑のエプロンをした、歯のない店員がいきなり話し掛けてきて、有芯は飛び上がりそうになった。

こいつ……いつからいたんだ?!

ただでさえ寒気がするほどだったので、有芯は「いいえ。大丈夫です」と断ったが、店員は大型クーラーのボリュームをおもいきりひねった。ごおおお、という音を立てて強風が有芯の髪を逆立て、徐々に鳥肌を立てていく。

有芯は強烈な風に髪がパサついてくるのを感じ、ギロリと店員を睨んだ。文句を言おうかと思ったが、やめにして有芯は地図を探した。さっさと探して、この店を出ようと思ったのだ。だが、こう乱雑に本が置かれていては、探しようがない。おまけに本は皆かび臭い。

すっかり諦め、出よう、と思ったその時、

「何をおはがしでふか?」

と、張り付くような声で店員が聞いてきた。

入れ歯だか何だか入れろよ、と思いながらも、有芯が仕方なく「地図です。携帯の店を探したいので」と言うと、店員の目つきが変わった。人のよさそうな顔には、哀れみの表情らしきものが浮かんだ。

「あんはねぇ、ほんなもの、ひぃどぅにはのってないでひよ。ほんなになってひまっへ」

何を言いたいのかよく分からなかったが、店員はふがふが話しながら、地図を書いてくれた。

話はよく分からなかったが、地図はわりと分かりやすく書かれていたので、有芯は信用することにした。

この先のバス停から、博多方面に乗り場二つ、肉屋と煙草屋の間の路地をまっすぐ、突き当たりに、店。

有芯は、バス停に向かって歩き出した。それが、運命の始まりとも知らずに。



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