once 11 10年後のデート



目的地に着くと、有芯は携帯を探した。智紀に電話しようと思ったのだ。しかし携帯は壊れたまま。番号を覚えていない有芯に、成す術はない。

くそ・・・先輩に何か言ったか聞こうと思ったのに・・・。

一方の朝子は、大きなアトラクションを見上げて呆然としている。

「えっ、ここー!?うわぁ~、でかすぎ・・・」

「来たかったんだろ、バーチャルランド」

有芯が聞くと、朝子は言いにくそうに「私が来たかったのは・・・バスで通りがかりに見た、もっと小さい遊園地だったんだぁ・・・インターいくつも越えるとか言ってたから、おかしいな、とは思ってたんだけど・・・」と言った。

んっ?! 俺の勘違いか?・・・言われてみれば、確かにバスの停留所に、小さな遊園地の張り紙があった。

「バーチャルランドじゃなかったのかよ。こっちが有名だから、俺はてっきり・・・」

「ごめんね・・・気がつかなくて」

「いや・・・俺こそごめん。どうする?これから」

「う~ん、せっかくだから、降りて行こうよ?」

「それって、俺も、ってこと?」

「今更何聞いてんの? 有芯がいないと帰れないよ、私」

「それもそうか・・・」

有芯は諦めて従った。駐車場から入り口までの距離も、かなりある。

「あ~あ~、人妻じゃない女と来たかったなぁ~」

「あ~、それが単身羽を伸ばしに来てる主婦に言う言葉?!」

「はいはい・・・ったく、切り返しのうまさは変わってねぇな」

「口達者は、お互い様でしょ?」

「まーあね」

二人は同時にニヤリと笑った。有芯はなぜ朝子が好きだったかわかった気がした。そうか、この人、俺と似てるんだ・・・。

「もたもたしてたら暗くなっちゃう! 走ろう!」

「よし!」

二人は走りだした。こうして一緒にはしゃいでいると、高校時代に返ったようだ。

「置いていくよーーーっ!!」

「こら待てーっ!! いい年して後ろ走り、恥ずかしくないのかっ!?」

「なーーーい」

「ったく・・・やっぱり変わってねぇな、お前は! あ、待てよ、そっちじゃないって!」

ふと見ると、朝子は後ろ向きのまま、今にも交差点を横切ろうとしている。

「先輩、危ない!」

きょとんとしている朝子の手を掴み、有芯は渾身の力で引っ張った。倒れてきた彼女の体を両腕で抱えたとき、そのすぐ後ろを大型トラックがかすめた。

有芯は体中の力が抜けた。「よかった・・・」

朝子は振り返ると、おそるおそる言った。「あ・・・もしかしてやばかった?」

有芯は朝子と密着していることに気付き、慌てて離れた。「やばかった?じゃねぇだろ?! あと一歩でひかれてたぞ?! お前命捨てたいか?! 悪ふざけはいい加減にしろよ!!」

「・・・」

見ると、朝子は目に涙をためて、ブルブル震えている。

「ごめん。・・・泣くなよ、調子狂うぜ?」

「悪ふざけじゃないもん」

「だったら何だよ」

「・・・・・。嬉しかっただけ」

「・・・・・」

そういえば、俺も嬉しかったな・・・。

有芯は、なんだか大人気ないことをして子供を泣かせてしまったような気分になった。

「しゅんとすんな! お前、もう母親なんだから、いい加減その方向音痴何とかしろよ。反対方向だぜ、行こう」

「うん・・・」

二人は正しい方向に向かって歩き出した。

「有芯」

「ん?」

「さっきさぁ、あの時みたいだったね」

「・・・あの時って何?」本当は知っていたが、彼はとぼけた。

「覚えてないんなら、いいや」朝子は明るく言った。


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