once 34 痛む心



目を閉じて木にもたれながら、朝子の手の温かみを感じていると、肩にこつんと重いものが乗ってきたので、有芯は目を開けた。彼の肩に頭を乗せた状態で、朝子が眠っている。

あーあ、寝ちゃって・・・ったく、どっちが世話役だよ・・・。

規則的に聞こえる小さな寝息を聞きながら、有芯は朝子に絡んだ自分の指を外すと、彼女が倒れないように肩を抱いた。そしてふと、彼女の顔色がよくないことに気付いた。

もしかして体調悪いのか、先輩・・・。

有芯が朝子の顔を覗き込むと、突然、彼女が目を開けた。

「・・・っ、何してるの?!」

「えっ、何も?」

「何でくっついてるのよ?! ・・・みんな見てるじゃない!」

「お前からくっついてきたんだろうが。・・・どう見られたっていいんじゃないのか?」

有芯は離れようとする朝子を抱き寄せた。

「・・・有芯・・・どうした、の?」朝子は激しく鳴りだした自身の心臓に怯えながら、有芯を見上げた。彼はじっと彼女を見つめている。

「なんて顔してんだよ。キスするぞ?」

有芯は笑って言ったが、その目は本気だった。朝子は胸が張り裂けそうになるのをこらえて明るく言った。

「何言ってんの・・・ダメ。ね、もう行こう?」

有芯は朝子を強く抱き締めた。「もう少しここにいたい」

朝子は全神経を集中させて笑顔を作った。「ダメだって。ねえ、離して?」

「先輩、もしかして昨夜寝てない?」

朝子の顔が微妙に引きつった。まさか、昨夜のこと思い出したんじゃ・・・。

「・・・・・それが何?」

「大丈夫かな、と思って。なぁ、もう少し休んだ方がよくないか?」

「大丈夫よ。ほら、行こうよ~!」

朝子は無理に立ち上がると、またしても有芯を引っ張った。

「急に立ち上がって、大丈夫か?」

有芯は言ったが、朝子は無視してどんどん歩いていく。彼に抱き締められ、鷲掴みにされた彼女の心はズキズキと痛んでいた。

バカ・・・優しくしないで・・・苦しいじゃない・・・。

朝子は全神経を集中させて、今度はしかめっ面を作り、必死で涙をこらえた。


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