once 40 不良たちの誘惑



いけないいけない、少し慌てすぎたかな。息を切らせながら僕は自転車を止めた。

ハンカチで濡れた顔を拭き学校に入ると、玄関でガラの悪い連中が数人、僕を囲んだ。極力、普段は近づかないようにしているような男たちだ。

中でも背が高く、長い茶髪を後ろに流したリーダー格の男が、僕に話し掛けてきた。

「病弱野郎よぉ、朝から熱心だったじゃないか」

見当はついていたが、僕はしらをきった。「・・・何の話?」

別のやつが、僕を下目使いで見ながらせせら笑う。「お前、川島朝子に惚れてんのか?! あれは止めたほうがいいぜ~。とんでもない女だ」

カワシマアサコ・・・。それがあの人の名前・・・。僕はその名前を忘れないように、反論もせず心の中で必死にメモをとっていた。

そんな僕の様子を見ながら、彼らはニヤニヤ笑っている。「どうだ? 俺たち、今日朝子さんとお約束があるんだけど、おまえも一緒にこいよ」

僕は驚いた。「あの人と・・・約束!?」

「そう。とっても楽しいお遊びのお約束。彼女とお近づきになれるチャンスだぜ」

やつらはニヤニヤしている。僕は迷った。

「それって、カラオケか何か?」

「そうそう。一緒に楽しくやろうぜ!」

嫌な予感は大いにあったが、僕は君に会いたかった。もう一度声を聞きたかった。

それに・・・もし君が危ない目に遭うのならば、僕が助けなければ、と思ったのも事実だった。

「今思うと無謀だよね~! ははは、若かったなぁ」

「・・・・・」いくら本人が明るく笑おうとも、有芯も朝子も、何も言うことができなかった。

とにかく僕は、放課後に彼らと落ち合う約束をし、教室に向かった。途中、保健の先生が雨でぐしょぐしょの僕を見つけ真っ青になり、大慌てでバスタオルを持ってきて僕を叱った。



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