once 41 たった一人の救世主



彼らに騙されていたと気付くのに、時間はそうかからなかった。

2,3人だけだと思っていたのに、放課後集まってみると、僕のほかに男ばかり6人も集まっていたのだ。

嫌な感じがした僕は、「えーっと、男ばっかり? 女の子って、川島朝子さんのほかに来るの?」と聞いてみた。

「何だ、お前、他の女がいいか?」

「そうじゃなくて! ・・・今日は何の集まりなの? さっきは、はっきり聞かなかった気がしたから・・・」

待ち合わせていた階段下の隅で、集団は盛大に笑った。とても耳障りな笑い声が、階段に響いている。僕の嫌な予感は最高潮に達していた。胸が、不吉な音を立て始めている。苦しい・・・ような気がする。

それからぞっとするような笑い顔を僕に向け、リーダー格の茶髪が言った。「まぁ、気にせずこいよ。川島朝子のいいカッコが見られるぜ」

「そうそう」

「小道具なんか使わねぇで、俺らで順番にやっちゃうほうが良くねぇ?!」

「バーカ、電球を脅しに使って、やるんだろうが」

「感謝しろよ病弱―、見せてやるんだから」

やつらが言っていることの意味はよく分からなかったが、君が危険にさらされていることだけは分かった。僕は、よせばいいのにやつらに掴みかかっていた。しかしろくに運動もできず、ちょっと激しく動いただけですぐ息切れする僕が敵うはずもない。すぐに両腕を捕まれて、完全にとらわれの身になってしまった。

それから先のことは、君も知ってるだろう? やつらはコンビニに入って・・・(彼はここで口に出すのも嫌だという風に顔をしかめた)小道具を買っていた。僕は、二人の男に両側から強く押えられたまま、コンビニの外で待機していた。

僕はその時ほど、自分の体力のなさを悔しがった覚えはない。

ここを出ればやつらは僕を連れて、君の帰り道で人気のない場所を狙って待ち伏せするだろう。

しかし僕には何もできない。抵抗できる力がない。

君を守ることもできない。自分の身すら守れない。

悔しさと怒りと悲しみと、どうか君があの道に現れませんように・・・という願いで、僕は自身の体調の変化に露ほども気がつかなかった。

君を守りたい・・・君を守りたい・・・僕は悔し涙をとめどなく流しながら、思いつづけていた。

そしてその後、なぜか僕は開き直った。

僕は、君を守れない。僕が君を守れないのなら・・・僕が君を守れないのなら、どうか誰かあの人を守ってください・・・神様仏様ジーザス・クライスト・・・!! ま、他力本願ってやつだよ。

僕の願いはむなしく、電球を買ったやつらが戻ってきた。僕はこれが夢であってほしいと何度も思った。だが捕まれている腕の痛みで、間違いなく現実だと思い知らされる。

僕は心で願を掛けつづけた。誰か彼女を助けてくれ・・・助けてくれるならどんな事だってする、本当だ・・・何でもするから助けてくれ・・・

その時、助けは現れた。たった一人の救世主―――雨宮君、君だよ。




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