once 44 太陽のような彼女



有芯も朝子も、てっきり宏信の父親が入ってくるものだと思って体を硬くしていたので、明朗そうな女の子が車椅子と飲み物を運んできたのを見ると、目を丸くした。

宏信は嬉しそうだ。「紹介するよ。僕の彼女で、椎木芳乃ちゃん」

芳乃も嬉しそうに笑い、元気に自己紹介をした。「芳乃です、よろしく! お二人のことは、彼から聞いて知っています」

朝子は恐る恐る聞いた。「彼女!? って・・・すごく若いんじゃ・・・」

芳乃ははにかんで答えた。「19です。大学生」

「大学生・・・」有芯も朝子も、あっけにとられていた。高校生くらいに見えた・・・。そして、朝子は気がついた。

「あ、さっきの玄関の声って、芳乃ちゃんが・・・」

「ええ、彼の両親が忙しいので、アルバイトでおうちのことをやってるんです」

二人は目を合わせ、また笑った。仲良さそう。朝子は二人が羨ましいと思っている自分自身に戸惑った。

宏信は愛しくてたまらないといったふうに、ゆっくりと芳乃の手を撫でた。「彼女は大学で社会福祉を学んでるんだ。その関係で僕のことを知って、いろいろと良くしてくれている。将来有望な介護福祉士の卵だよ」

「へぇ・・・すごいね・・・」

芳乃は照れながらも、手際よくサイドテーブルを引き出し、アイスティーを並べた。「これ飲んだら、お散歩しませんか? 庭を案内しますよ」肩まであるふわふわした髪を揺らし太陽のように明るく笑う芳乃につられ、朝子も有芯も笑って頷いた。


芳乃は慣れた手つきでベッドを操作し、彼を車椅子に移動させた。その道の知識が全くない有芯と朝子は、ただただ感心するばかりだ。

相変わらず外の日差しは強かった。芳乃は帽子をかぶり、宏信にもつばの大きな帽子をかぶせた。

「こっちは珊瑚樹。この白い花が終わると、赤い実がなるんですよ」

「ふーん、これ、そういう名前とは知らなかったな・・・」

有芯と芳乃が話している隙に、宏信が朝子を連れ出した。(正確には、朝子が宏信の車椅子を押して行ったのだが)

宏信は美しい深青の海を遠くに見ながら言った。「朝子さん」

「何?」

「彼と結婚して、今、幸せ?」

「・・・幸せよ?」

言いながら、朝子は彼に何もかも見透かされているような気分になった。

宏信は自分で車椅子を操作し、朝子に向き直った。「雨宮君が好き?」

「・・・ええ。・・・何があっても、きっと一生愛しつづけるわ」

朝子は苦笑した。嘘ついてるのに・・・本音を言ってるなんてね。

宏信は軽いため息をつくと、再び海のほうを見た。「僕は、芳乃を愛してる」

「見てれば分かるわ。あなたたち、とってもお似合いよ」

「でも、僕は彼女を抱けないんだ」

朝子は宏信の顔を見た。彼の顔が、初めて歪む。

「この体じゃ仕方ないけど・・・男じゃないね」

「何言ってるの!!」朝子が大きな声を出したので、宏信はびっくりして彼女を見た。

「私は、あなたたちが、羨ましいくらいよ?! セックスできないかもしれないけど、深く繋がってる・・・自信を持ってよ!! ・・・男でしょ?!」

宏信が笑ったので、朝子はほっとした。

「そうだ! タイボク君にも、これやったげる」




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