onse 49 忘れるために



窓の外では、二羽の小鳥が仲良さげに顔を摺り寄せ囀っている。朝子はたった今、有芯から言われた言葉の意味をよく考えられないまま、愛を語らうつがいをぼんやりと見ていた。

有芯は、朝子の視線の先を見やった。「・・・ごめん」

彼が謝って、自分を抱き締める腕を解いたので、朝子はほっとした。でも・・・これでよかったはずなのに、胸が潰れそうよ・・・。

しかし有芯がカーテンを引く音と同時に、明るかった部屋が薄暗くなり、その途端、再び彼は朝子の唇を奪った。

う・・・そ・・・カーテン、閉めに行っただけ・・・?!

有芯は朝子を抱き締め、耳にキスをすると、再び囁いた。「俺とするの、嫌?」

朝子は早まる鼓動の理由を考えないようにしながら、必死に声を絞り出した。「どういうつもり・・・? 他人の女とは寝ないんでしょう?」

有芯は苦笑した。「話をそらすなよ。俺は、嫌かどうかを聞いたんだけど?」

朝子は震える声で言った。「・・・無理よ」

「無理? 嫌ではないんだ?」

朝子はしまった、と思った。ちゃんと拒絶しないと負けてしまう。「い、嫌!」

「嘘つき」

背の高い有芯の唇が降りてきて、朝子の唇を挟み吸うと、首筋に舌を這わせた。

朝子は声がもれそうになるのを必死で堪え、有芯を思い切り突き放した。

「何するの!? 嫌って言ったでしょう?! あんたなんか大っ嫌い! 触らないで!」

有芯は息を荒げている朝子を見てニヤニヤ笑っている。「先輩ともあろう人が、いつもならもう少し上手く嘘がつけると思うんだけど?」

朝子は壁を背にし、わざわざ先輩呼ばわりしてイヤミを言う有芯を睨んだ。こっちにそんな余裕、あるわけないじゃない・・・!

「可愛いな、怒ってる先輩も。顔、赤いよ」

窓の外からは、まだ小鳥の囀りが聞こえる。朝子は落ち着こうと、乱れた髪をかき上げた。

「お願いだから、先輩をからかわないで・・・」

有芯は笑うのを止め、朝子を見つめたままピアスを後ろのテーブルに放り、彼女に迫った。

「からかってなんかいない」

「来ないで・・・っ」

有芯が逃げようとする朝子をふわりと抱き上げると、彼女は拳で有芯を叩いた。それでも彼は顔色ひとつ変えずに、彼女をベッドに下ろした。

彼は両手で朝子をベッドに押し付けると、彼女を見つめた。「これが証拠」

「やだっ!」

彼女の拒否は受け入れられず、口の中に有芯の舌が入ってきた。

どうして・・・どうしてこんなに胸が熱くなるの・・・? 苦しくて死にそうよ・・・。

朝子は有芯の舌と歯と唇を受け入れながら、体中が熱で溶けてしまうのではないかと怖くなった。有芯の唇は朝子の唇を離れ、首筋から胸元に移動した。彼の指が、彼女の服の中に滑り込み胸の膨らみを握り締めている。彼女の体はすべての道徳を捨て去り、ただ有芯を求めていた。どんどん荒くなる息がその事実を物語っており、朝子は絶望的な気持ちになる。

「有芯・・・だめ・・・お願い、やめて・・・」

有芯は唇を離すと、苦しげにニヤリと笑った。

「無理。・・・そんな色っぽい声で言われると、むしろ俺、止められなくなる・・・」そう言うと、彼は乱暴に掴んでいた乳房を優しく指先で撫で始めた。

有芯の指の動きに反応し、朝子の身体はビクリビクリと震え、次第に荒い息が、声帯を震わせ始めた。彼女はベッドに横たわりながら、恥ずかしさで泣きそうだった。

「有芯・・・やめて」

「なぁ、ごまかすなよ。」

有芯はもう少しも笑っていない。「お前の気持ちは?」

「・・・・・」

「俺に会うためにここに来たんだろう?」

「でも、こういうことがしたくて来たわけじゃない!・・・私には家庭があるんだもの。ただ私の中で、あなたとのことが割り切れてなくて・・・あなたがあの時感じてた本当の気持ちを聞けば、吹っ切れるんじゃないかって思った。だから・・・会いに来たの。・・・忘れるために」

朝子は溢れそうになる涙を必死でかみ殺しながら、有芯を見つめた。




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