once 66 別離の朝



カーテンの隙間から差し込むまぶしい朝の光に、朝子は目を覚ました。彼女は有芯の腕枕に支えられ、眠っている彼の両腕にすっぽりと包まれていた。

私・・・生きてる・・・。

もう散々泣いたはずなのに、自分が現実に生きていると分かった瞬間、朝子の目から、まだ涙が溢れる。

朝子は夢を見た。有芯と、ずっとずっと一緒に暮らす夢を。今日のように暖かい光が差し込む部屋で、愛し合い、笑い合い、幸せに幸せに暮らす、夢。

あれは天国だと思ったのに・・・どうして私はまだここにいるの・・・?!

「・・・バカみたい」

朝子は有芯にしがみつき、自分に言い聞かせた。

「タイボク君じゃあるまいし、そんな突然死ねるわけ・・・ないじゃない・・・」

朝子は眉間に皺を寄せて眠っている有芯を見つめた。涙でよく見えないや・・・。朝子は涙をぬぐい、有芯の唇にそっとキスをすると、彼の腕の中から何とか抜け出し、のろのろと服を着た。

髪を上げようとして、ふと昨日の有芯の言葉を思い出した。

―――こっちの方が色っぽい―――

朝子は頭を軽く振ると、ピンで髪を上げ、裸のまま寝ている有芯の隣に座った。彼は顔をしかめ、唸りながらそっぽを向いてしまった。

「・・・目を見て言う自信がないの。だから、行くね。・・・さようなら」

朝子は有芯の剥き出しの肩にシーツを掛けると、また泣かないうちに、部屋を出ていった。



朝子は、光がきらめく外の風景を、これほど恨めしく思ったことはなかった。

目の前に広がる道は、昨夜まで手を繋いで歩いた道。

ここからは、一人で・・・有芯なしで歩まなければならない。

朝子はおそるおそる一歩を踏み出した。

なんだ、歩けるじゃない。

有芯がいなくても、やっぱり私は大丈夫。母は強し、だもの。

朝子は嬉しくなって、意気揚々と歩いた。

有芯に抱かれてよかった。

あんなに深く、本気で男と抱き合ったのは生まれて初めてだった。

一晩だけの関係だったからこそ、あれほど深く愛し合えたのかもしれない。

素敵な思い出をありがとう、有芯・・・

彼女はスキップに近いくらい弾みながら歩いた。周囲の歩行者が、怪訝そうな顔や、ぎょっとした表情で朝子を見る。

さすがに変よね・・・。朝子は意識して普通の歩みに修正した。

彼女は気付いていなかった。

自分が微笑したまま、涙を流し続けていることに。




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