once 72 お前の責任



有芯は古い手帳の連絡網で『副部長』と書いてある欄をなぞり、その番号を押した。

頼む・・・頼む!! 家にいてくれよ・・・・・。

「はい、松田です」

それは昔と変わらない神経質そうな声だった。

「キミカ先輩・・・!!」

「ん? そうだけど誰?」

しかしもうあまり時間がない。有芯は再び襲ってきためまいを堪え、声を絞り出した。「雨宮です・・・」

「は?」

有芯はもどかしさのあまり怒鳴った。「雨宮有芯だよ!!」

キミカは有芯の怒鳴り声に、のんびり答えた。「あ~あ、雨宮ね、久しぶり・・・うちに電話してくるなんて、一体どうしたの? そんな、慌てて」

「朝子・・・」

「え?」

有芯は呼び捨てを慌てて修正した。「いやその・・・朝子先輩の携帯番号、教えてくれない?」

途端にキミカの態度が冷たくなった。「・・・なんで雨宮にアサのケーバン教えなくちゃならないの? アサの許可なくそんなことはできないよ」

「どうしてもダメ?」

「ダメ。絶対よ」

有芯はため息をつくと言った。「・・・じゃあ仕方ねぇ。キミカ先輩が朝子に電話してくれよ」

「だから、何で私がそんなことしなくちゃならないわけ?! 私はアサに幸せでいてほしいし、あんたなんかともう係ってほしくないの!! 絶対電話しないから!」

キミカがイライラした声で言うと、有芯は落ち着き払って言った。

「ところがお前に拒否する権利はねぇんだよ」

「え? あんた、何言ってるの?! あの子は結婚しているし、いいお母さんなのよ?! そっとしておいてあげて!」

ヒステリックに怒鳴るキミカに、有芯は声を荒げることなく言葉を返した。

「よくもまあそんな口が利けたもんだ・・・お前、喋っただろ・・・? 俺の、昔したケンカのこと」

キミカは一瞬、絶句した。

「・・・なんでそれを、あんたが知ってるの・・・まさか、アサが・・・?!」

有芯は電話を持っていない方の手で後ろ頭をくしゃくしゃにした。「そのまさかだよ。俺がこんなに慌ててるのは、お前の責任でもあるんだぜ?! お前の携帯から、朝子の携帯に電話しろ」

しばらくして、キミカは電話の向こうでため息をついた。「・・・メールじゃダメ?」

「電話しろって言ってんだろうが!! あ、この電話は切るなよ?! で、電話したら、受話器にくっつけて俺と話をさせてくれ。それならいいだろ、番号俺に教えなくて済むんだから」

「・・・なんでそうまでしてアサと話したいの?」

「うるせぇな、急いでんだよ! 言うとおりにしやがれ!!」

「わかったわよ!! だから怒鳴るのやめて、それが人にものを頼む態度なの?!」

「・・・悪い」

「・・・しおらしい雨宮なんて、何だか気持ち悪いわね」

「ぁんだとぉ?!」

「だからうるさいって!! ・・・静かにして、電話してるから」

数秒の静寂が長い長い間に感じられ、有芯は知らずに奥歯を噛み締めていた。




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