once 73 再会



キミカが「あ、アサ?」と言ったのを聞き、有芯は我を忘れ叫んだ。

「朝子!! 朝子!!」

「ああああああうるさぁぁぁぁい耳がいかれるわ!!」

かすかに聞こえる朝子の『えっ? 何? キミ? どうしたー?』という声に、有芯は公衆電話にありったけの小銭を追加しながら「キミカ先輩、さっき言ったとおりにしてくれ!!」と叫んだ。

「わかった!! わかったから!!うるさい!!」

キミカが受話器と携帯をくっつけたらしく、間もなく有芯の耳に、遠くから懐かしい朝子の声が響いた。

『キミー? どうしたの、うるさいって何?』

「朝子・・・」

『有・・・芯?』

途端に、朝子の声が緊張する。

「どこにいるんだ、今・・・飛行機の中か?!」

『・・・違うわ』

「会って話したい」

『・・・私には、もう話すことなんて何もない』

「朝子・・・俺は、心の底から後悔してる。あの時、お前と別れたことを」

『やめてよ・・・私はあれでよかったと思ってるわ・・・!』

「お前、言っただろう?! 私たち、もっとちゃんと話をすればよかったって・・・。俺もそう思う。だから、もう後悔しないために俺は・・・ちゃんと伝えたい、朝子・・・」

『私は後悔なんてしてない!』

その叫び声が、受話器以外からも聞こえた気がして、有芯は後ろを振り返った。

「あ・・・さこ」

有芯の10mほど後方に、携帯を片手に持ち、彼を見て呆然と立ち尽くす朝子の姿があった。



突然両方の電話がブツリと切れ、キミカはヘロヘロと自宅の床にへたり込んだ。

「何なの、あの人たち・・・・・一体」

彼女は呆然と呟き、頭の中を整理しようと試みた。

私のせい・・・? 何が?

ちゃんと伝えるって、何を?

後悔してないって・・・どういうこと?

キミカがどれだけ冷静になろうとしても、ある確信が邪魔をし、どうしても呆然としてしまうのだった。

きっと・・・あれからあの二人の間に、何かがあったんだ。

おそらくは―――――男と女として。

キミカは、半年前に親友と交わした会話を思い出していた。

“あのときの肋骨さぁ、あんたのためにケンカしたせいで折ったのよ”

“・・・ウソでしょう?”

“本当。雨宮に口止めされてて、言えなかったんだけどね~”

“・・・・・ふうん。そうなんだ。私、トイレ行ってくるね”

“うん、ゆっくりしていってね~”

そういえば、アサはあの時、トイレから戻ってこなかった・・・。

全然気にしていなかったけど・・・。あいつのことはもう忘れたんじゃなかったの、アサ?

キミカは顔を覆い、ため息をついた。なんで・・・?! 仲良さそうでかわいい子供にも恵まれた二人が、私は羨ましかった。でも、だからといって夫婦を壊す気なんてあるはずない。

私のあの言葉のせいで・・・一体何が起こっているの?! アサ・・・。




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