月の光

月の光

小説 


僕はハメられてた

あいつは僕に罪をなすりつけた
あいつを信じた僕がバカだったんだ
今更後悔しても仕方ない
僕は警察に追われる身となった

果てしなき逃亡生活
警察に捕まる気などさらさらない
僕は何もしていないのだから

こうなった以上、僕がなすべき事はただひとつ
あいつを見つけ、僕のうらみを晴らすだけ
警察に差出しはしない
なんせ僕を犯人と宣言した警察も、もはや僕にとっては敵でしかないから

敵にエサを与える義務などないんだから



凍えるような寒さの中、僕は一人歩いている
尾けられている
何者かが僕を追ってきている

人間か・・・?それとも・・・?

気づかないふりをし、僕は歩き続ける
両手はコートのポケットの中
右手のポケットの中にはタガーが入っている
ひそかにタガーの柄を握る

追ってきている何者かはかなりのスピードでついてくる
走ってもとうてい逃げ切れる相手じゃない
タガーひとつでどこまでやりきれる?

覚悟を決め、振り返る
ギラギラと光る黄色い目が僕をとらえていた
ぶつかり合う視線

相手も足を止め、僕を睨み返した

だらりと垂れた舌
鋭い光を放つ牙も見える
ハァハァと息を吐くたびに白い煙があがる

「追ってきたのか?」

僕の言葉を聞き取ると、奴は耳を倒し、わずかに尻尾をふった
人には慣れにくい狼のくせに・・・

大雪原の中、僕らの交流を見ていたのは月だけだ
お互い一匹狼だったから、相手に自分と近いものを感じたんだろう
理由はともかく、僕と彼は関係を持つことになった

言葉は通じなくとも、僕は全然かまわなかった
言葉を持つ生き物は人間のみ
僕は人間という生物に絶望を感じていたから、人間の特権など捨てて良かった

終わる事のない逃避行
その果てには何が僕を待っているのか
それとも何も待ってはいないのか
目的も持たない僕の歩きなど、この世では存在しないと同じことなのか

月は何も答えてはくれなかった

ただじっと、僕らを見つめているだけだった

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