あれは何で喧嘩したんだか理由はもう忘れた。
妻は社員旅行へ出かけ僕は僕でバイクを駈って尾道までツーリングしていた。
尾道の東横インの玄関の横にバイクを止めて夜の尾道の街で一杯やろうとフロントでどこらへんで飲めますかと尋ねると「しんがい?」というところでお店をしているということでタクシーを捕まえ出かけてみたけどどの店も閉まっていた。考えてみたら今日は日曜日じゃないか、小さな町では日曜日は夜のお店は閉まっている。フロントもちょっと気を利かせろと思った。
だけど、本当はいい気持ちで飲める心境ではなかった、妻とは別れる別れないというシリアスな喧嘩の最中だったのだ。
妻にも夜の街にも嫌われた僕は歩いてホテルに戻ることにした。
しばらく歩いたところで商店街のアーケードが見えそこは少し明るかったのでそこを抜けてみようと思った、少し大回りでも見知らぬ街は散策しても飽きない。
アーケードに入ると商店街のはからいか、誰かが趣味で流しているのかフランス語の JAZZ が流れていた。
アメリカのジャズではなくフランス語のジャズは楽器の技巧に凝ってるわけでもなく黒人特有の高音で歌いこむでもなくただたんたんと女性ボーカルが流すように歌いそれを追いかけるようにリズムが刻まれる主役は女性のボーカルでとても心にした。
アーケードを出るころには僕は完全に回りにはばかることもなく涙目になっていて(猫の子一匹いないので回りにはばかる必要もなかったのだが)妻が恋しくてたまらなかった。
アーケードを抜けると左手は海でオレンジ色の街灯が小さな波を照らしキラキラと輝いていた。
喧嘩の原因の大半は僕が悪いので電話していいのか躊躇していた。
さっきのフランスのジャズがあまり心にしみ恋しさ百倍、結果はどうであれ勇気を振り絞って電話してみた。
「さみしいよ」
それに対する妻の返事は「私もさみしいわ」だった。
後でそのフランスのジャズを散々探してみたがとうとうわからなかった。
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