「異端」

前編


決して全快とは言えない雲空の下、一台の騒がしい車がやって来た。
「ってっめ~! 悟浄!!今絶対カード スカしたろっ!!」
ジープ型の車から身を乗り出してわめく少年、悟空。
「うっせーっつの。俺ァな~んもしてね~よっ!」
悟浄と言う男は、まあ悟空と比べれば随分とガタイはでかいものの、言っている事は大差ない。
「ウソ付け!この卑怯エロ河童!ゴキブリ!!赤毛のアン!!!」
「あ~?誰が河童だ ゴキブリだ 赤毛のアンだぁ~?」
卑怯とエロは否定せず、なおも悟空を挑発する悟浄。
「なんだよ、この・・・」
スパーン!
悟空は、反論を言う前に頭上に飛んできたハリセンに思わず叫ぶ。
「痛ってぇ!!  何すんだよ 三蔵!!」
そう言い、振り向きざまに後ろにあるの三蔵に目を向け、悟空は瞬時に青ざめた。
まるで鬼神のごとくご立腹している三蔵を目の当たりにしたのだから、仕方あるまい。
あろう事か二人は、野宿続きで睡眠不足の三蔵の 仮眠中に騒いでしまったのだ。
だが、世の中には、空気の読めない馬鹿も居る様だ。
「あっれー?三蔵様はおネムなのかしらぁ??」
ガシャッ
言い終わると同時に、額には銃口が当てられた。
いつもなら反論するところだが、いつもになくマジに打たれそうな三蔵の顔に、さすがの悟浄の足もすくんだ。
(殺られる・・・)と、悟浄が思ったと同時に、八戒は(馬鹿はこっちでしたね)と笑顔の裏で思った。

    ーーーーーーーーけて  助けてっ!!-----


「え?」
ふと、悟空の耳に小さな子供の声が届いた。
「今・・・なんか言った?」
悟浄と同じく空気を読まずに、悟空は三人に尋ねた。
しめたとばかりに、ソレを助け舟に使おうと、悟浄はいつになく真剣に応答した。
「何も言ってねーぞ。」
「そうですよ 悟空。一体何が聞こえたんです?」
八戒がなごみを感じさせる笑みで言う。
「ん~? なんかさ、子供が助けてって・・・・・」
そこまで言って、悟空はハッとした。
よく周りを見回せば、今走っているのは、人どころか木一つ生えていない平野だ。
子供の声なんて、聞こえる筈がない。
「おぃおぃ、オメー 幻覚だけでなく幻聴まで聞こえる様になったってのか?」
悟空はさっきの事を思い出し、ムッとした。
「何だよ!だいたいさっきのは幻聴じゃねーだろっ!ホントに聞こえたんだよ 子供の声が~!!」
「ほ~?お前以上にガキか??」
その言葉に益々ムキになった悟空にストッパーをかけたのは、八戒だった。
「ほら 悟空、新しい街が見えてきましたよ。」
そんな八戒の言葉に、悟空の怒りは一瞬で食欲に変わった。
「ヤッター!!新しい宿だぁ~!メシだぁ~!!」
それもその筈。
三蔵一行は、この四日間野宿続きの生活をしていたのだ。
悟空としては、美味しいご飯にあり付きたい訳で、三蔵たちもちゃんとしたベットに就きたい訳だ。
久々の宿に期待しながら、三蔵一行は街に向かった。

どうも変だ。この街に入ってからの、まるで突き刺さるような視線。
しかしそれもすべて、悟空へと向けられたものだ。
「また 変なのが来た」
「早く出て行ってくれないかしら? また暴れられたら 困るわ・・・」
「零と同じ金鈷をつけてるんだ。間違いないだろう。」
村人からの冷たい視線に、悟空は拳を握った。
さっきから何を言われているのか、どういう意味なのかは分からないが、悟空の中に眠る記憶に揺さぶりがかけられた。
不快感のような、微妙な形で。
(なんか、よく分かんねぇけど・・・このカンジ・・・前にどっかでっ・・・)
そんな悟空の脳裏に、一瞬金色の髪が浮かんだ。
太陽のような・・・。
訳の分からない感覚に、悟空はうつむいて黙り込んでしまった。
「三蔵、どうやらこの街には零っていう悟空のそっくりさんがいるみたいですね。」
「あぁ、同じ金鈷をつけてるヤツらしいな。」
「しかも、異端な上にお尋ね者みたいネ。」
そんな悟空をよそに、冷静に解説を進めていく三人。
「しかし、これじゃあ ろくに買い物も出来ませんね。」
「げっ!マジかよ~!まさか今夜も野宿かよっ」
「有り得ない事ではないな。」
そんな三人の会話に、一人の女性の声が届いた。
「零!零なの?!!」
そう言い、人ごみの中から駆け寄ってきたその女は、髪を後ろに束ね、色の薄い、いかにも貧しい風体の格好をしている。
その女は、悟空の顔を見て、一気に声のトーンを落とした。
「零・・・・じゃないのね・・・。」
落ち込む女に、悟浄が口説き体勢になって近づいた。
「オネーさん、もし良かったら、その零って子供の事 教えてくんない?」
必要以上に近づいてくる悟浄に、女は不信感をあらわにした。
「貴方たち・・・一体誰なんですか?」
「あの、僕たち旅の者なんですが、その零って子とこの悟空は ホントに同じ金鈷をつけてるんですか?」
八戒がつかさずフォローするが、
「別に名のる必要はないだろう。こちとら、その零ってガキのお陰で迷惑してんだ。」
三蔵の容赦ない一言で、無駄になる。
だが、女は重い口を開け、話し始めた。
「零は私の子供よ・・・。
    15年前のあの日にから。」



















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